Restart~あなたが好きだから~
週明け。いつものように出勤した七瀬は、極秘裏に人事部次長の澤崎貴大(さわざきたかひろ)からの呼び出しを受けた。何事かと首をひねりながら、顔を出すと、面談室に案内され、中に入ると、澤崎だけでなく人事部長も待っていた。人事部のトップ2人のお出ましとなれば、ただ事とはとても思えない。さすがに七瀬も緊張の面持ちで彼らの前に腰かけた。


「藤堂さん。」


まず澤崎が口を開いた。


「実は、君からパワハラを受けているという告発が、こちらに届いている。」


「パワハラ・・・ですか?」


確かに厳しいことばかり言って、部下や同僚に敬遠されている自覚はあったが、まさかパワハラ呼ばわりされてしまうとは・・・。正直に困惑の表情を浮かべた七瀬の脳裏に、なぜか田中の顔が浮かんだ。


「その社員は、録音音声も提出して来たので、人事部としては当然看過することは出来ず、次長である僕がリーダ-となって調査を進め、営業部第二課のみなさんに、個別にヒヤリングを行わせてもらった。」


30歳という若さで人事部NO2のポジションに就き、切れ者と評判の澤崎は、鋭い眼光を向けて来るが、その視線を七瀬は真っすぐに受け止めている。


「藤堂さんの言動を、パワーハラスメントと受け取る人がいたのは事実だ。だが、それは全員ではない。また君の上長である課長と係長は、『言葉は厳しいかもしれないが、決して威圧的ではないし、あくまで業務上の指示指導と認識している』と口を揃えている。」


「そうですか・・・。」


「ということで結論を申し上げる。藤堂主任の言動に、パワーハラスメントと疑わしきものはある。しかし、そうと断定することは出来るものではなく、従って懲戒に至るものではない。そこで今回は、人事部長名で、藤堂主任に注意を実施する。これが結論だ。」


と結んだ。


「そうですか、かしこまりました。いろいろご迷惑をお掛けしました。」


それを受けて、七瀬が頭を下げると


「藤堂さん。」


とここまで沈黙していた人事部長が口を開いた。


「君のような優秀な人から見れば、部下のやることがもどかしく、また危なっかしく見えるだろうが、少し目線を下げてやって、大らかな気持ちで接することも必要だよ。まぁ、よろしく頼むよ。」


そう言って笑い掛けて来る部長に


「はい。」


七瀬は固い表情で頷いて見せた。
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