成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子は、乃菜の園の持ち物に書かれた、ひらがなの名前を思い出し愕然とする。

「お前らしいな」

 優しく肩を揺らす成瀬の姿に、真理子は首を傾げる。


「いや。ああだこうだ深く考えるよりも先に、頼られたら人助けを優先する。……真理子らしいってことだよ」

「柊馬さん……」

 真理子は次第に赤くなる頬の熱を感じながら、成瀬の顔を見上げる。


 ――あぁ、やっぱり。私はずっと柊馬さんの側にいたい。家政婦は、辞めたくないよ。


「あの、社長……。今後の事って……」

 真理子が社長に声をかけようとした時、再び入り口の扉が大きく開かれた。


「おやおや、社長。まさか、これだけの騒動を引き起こしておいて『いいお話でした』で締めくくるおつもりですかな? 納得できませんなぁ」

 大きなだみ声と共に、フロアに入ってきたのは専務だった。

「専務。それは、どういう意味でしょうか?」

 社長の低い声に、フロアは再び緊張に包まれる。
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