成瀬課長はヒミツにしたい

黒い影

 卓也は、休憩室の自動販売機で缶コーヒーを買うと、深く息を吐きながら椅子に腰かけた。

「真理子さん、すごい怒ってたな……」

 無理やり抱きしめた卓也の腕を振り払い、走って去っていった真理子の顔を思い出す。


 ――きっと、真理子さんに嫌われた。


 卓也は深くため息をつくと、首を大きくうなだれる。


 真理子を見つめる成瀬と社長の顔を見た途端、卓也の中でどうしても気持ちに歯止めが利かなくなっていた。

 それでどうこうなるとは思っていない。

 ただ、どうしても二人の元に真理子を行かせたくなかったのだ。


「……ったく、なんでこんな日に限って、夜中に一人で作業なんだよ」

 悪態をつきつつコーヒーを口に含んだ時、ざわざわと楽しそうな声が近づいてくるのが聞こえる。

 振り返ると、営業部などに所属している同期が数名、通りかかるところだった。
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