成瀬課長はヒミツにしたい
 社長は真理子に近づくと、優しく肩に手をかけた。

「真理子ちゃん、本当にありがとうね。二人が調べてくれたおかげで、顧客情報が漏洩したらしい事実はわかった。今回、一番重要なのはそこだからね」

「社長……」

 社長は真理子から手を離すと、小さくため息をつく。


「それにもう一つ。情報漏洩に、うちの社員が関係してたってこともね……」

 そう言いながら、社長は壁に掛かる額縁を見上げる。

「顧客に多大な迷惑をかけたことは、事実だからね。それはちゃんと、俺が責任取らないと……」

 再び振り返った社長の顔には、固く決意したような表情が浮かんでいた。


「明彦……? お前、まさか……」

 静かに社長の言葉を聞いていた成瀬が、はっとして腰を浮かす。

 それを見て、社長はおどけるように両手を振った。

「大丈夫だよ、柊馬。俺だって、血迷って発言したりしないから」

 社長の笑い声が、静かすぎる部屋に響く。


「じゃあ、行ってくる」

 社長は後ろ手に片手を上げると、振り返ることなく出て行った。
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