成瀬課長はヒミツにしたい
 夕方になり、小宮山が鞄に手をかけながら、真理子を振り返った。

「俺はこの後、社長に同行してそのまま直帰するから。後はよろしく」

「はい。気を付けて行ってらっしゃい」

 真理子はそう言いながら、見送りのために小宮山と一緒に社長室に入る。


「あれ?! 社長。今日は、どうしちゃったんですか?!」

 そして真理子は思わず驚いた声を出した。

 いつもは小宮山に急かされて準備に取りかかる社長が、今日はすでに準備万端で待っていたのだ。


「真理子ちゃんにとっちゃ、俺は劣等生なんだなぁ」

 社長はそう言いながら、小宮山と顔を見合わせて笑っている。

「い、いえ。そういう意味では、決してなくて……」

 真理子は慌てて両手を振ると、取り繕うようにもごもごと口ごもる。

 その姿に、社長は再び笑い声を立てた。

「ごめん、ごめん。実はさ。今日の商談相手はね、ちょっと重要なの。この話が決まれば、サワイはもっと変わるかも知れない」
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