成瀬課長はヒミツにしたい

本当の気持ち

 成瀬は工場に向かうタクシーに揺られながら、静かに窓の外に目を向ける。

 工場に来るのは、真理子と一緒に橋本の件を調べに来て以来だ。


 あれから季節は変わり、工場へ向かう道端には、草木が爽やかに揺れている。

 成瀬は軽快に通り過ぎる景色をぼんやりと眺めながら、エントランスで明彦が言った言葉を思い出していた。


「ねえ、柊馬。知ってる?」

 明彦は口元だけ引き上げると、成瀬の様子を伺うように、そっと口を開いた。

「今日は真理子ちゃんの、誕生日なんだよ」

 そう言いながら、チラリと明彦の手元で揺れたジュエリーブランドのパンフレット。

 それを見た瞬間、成瀬は自分でも驚くほど、動揺したのだ。


「押し込められたと、思ってたんだけどな……」

 成瀬は車の背もたれに頭をあずけると、大きくため息をつく。

 今までどんな状況でも、冷静沈着に物事を判断して過ごしてきた。

 それなのに、ここまで心をかき乱されるなんて。
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