成瀬課長はヒミツにしたい
 ――あぁ、やっぱり、私は柊馬さんが大好きだ。もっと、柊馬さんに近づきたいよ……。


 真理子は、掴んだスーツの裾をキュッと引っ張る。

 ずっと怖くて聞けなかった成瀬の気持ちを知ることができたのに、心はもっと、もっとと欲している。


 ――私はとっても欲深い……。でも、それが、人を好きになるっていうこと……?


 真理子はぎこちなく手を伸ばすと、勇気を出してそっと成瀬の眼鏡を外した。

 成瀬は驚いたような顔をしている。


「柊馬さん。もうその顔を……ヒミツにしないでください……」

 顔を真っ赤にして言う真理子の姿に、成瀬は嬉しそうに口元を引き上げる。

「真理子、お前、言うようになったな……」

 すると成瀬は真理子の顎先を、長い指でくっと持ち上げた。

 唇が触れるか触れないか、鼻先すれすれの距離。


 今までだって、何度もこうして成瀬に迫られたはずだ。

 でも、今は……。
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