成瀬課長はヒミツにしたい
「真理子さん。さては昨日の合コン、またお世話だけして終わったんじゃないですか?」

 真理子はその声に、ありったけの不機嫌な顔で振り返る。


 予想通り、にやついた顔で立っていたのは、同じシステム部の後輩、佐伯卓也(さえきたくや)だった。

「俺は、真理子さんみたいな人、タイプなんですけどね」

 卓也は、愛想のいい爽やかな笑顔を振りまき、楽しそうに真理子の顔を覗き込む。


「からかわないで! それに、卓也くんが欲しいのは恋人じゃなくて、お世話してくれるお母さんでしょ?!」

 真理子は歩調を早めると、さっさとビルのエントランスを抜けた。


「ひどい言い方だなぁ。じゃあ、そう言う真理子さんが、相手に求める条件って何なんですか?」

「え? 条件?」

 真理子は一瞬躊躇(ためら)って、目線を上に向けた。


「……笑顔で包んでくれる人、かな」

 優しくたくましい男性の胸に、ぎゅっと抱きしめられる様を想像しながら、真理子はぽーっと頬を赤らめる。
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