成瀬課長はヒミツにしたい
「水木さん、何か用ですか?」

 顔を上げた社長が、よそ行きの声を出した。

「急ぎではないので、また後にします……」

 真理子は咄嗟にそう答えると、そっと扉を閉じる。


「そう言えば社長、社内で噂になってるんですけど……」

 真理子がパタンと閉じた扉をぼんやりと見つめていた社長に、男性社員が声をかけた。

 男性社員は、みんなに目配せをすると小声になる。

「秘書の水木さんと成瀬課長は、常務派かも知れませんよ」

「常務派?」

 眉をひそめる社長に、女性社員がそっと身を乗り出した。


「撤退の話ですよぉ。賛成は社長派。反対は常務派。今はみんなそう呼んでます。まぁ常務派は、ほとんどご年配の方たちですけどね」

 肩をすくめてくすくすと笑いながら言う女性社員の横で、他の社員も大きく首を縦に振る。

「二人がこそこそ常務と、話してたらしいんですよね」

「お二人って家政婦なんですよね? 隠れ反対派もいるんで、社長も気を付けてくださいね」
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