成瀬課長はヒミツにしたい
 真理子が目の前に立つと、成瀬はおもむろに眼鏡を外した。

 そこに見える瞳には、今までのクールさは一切感じられない。


 真理子はつい甘い空気に引き込まれるように、よたよたと成瀬に歩み寄った。

 すると急に、成瀬の長い腕が真理子の肩をぐっと引き寄せ、鼻先すれすれに顔が近づく。

「ひ……」

 またしても唇が触れそうな距離で成瀬に見つめられ、瞬時に真理子の頭はパニックだ。


「日曜日、9:00時間厳守」

 成瀬は短くそれだけを言うと、再び眼鏡を耳にかける。

 そして無表情のまま、呆然とする真理子を置いて会議室を出て行った。


 置き去りにされた真理子は、へなへなと床にしゃがみ込んだ。

「だから……」

 ガチャリと閉じた扉を睨みつけながら、真理子は火が出そうなほど沸騰した頬を膨らませる。

「いちいち、顔が近いんだってば!!」

 会議室に響き渡る声は、きっと誰にも聞こえていないだろう。
 
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