成瀬課長はヒミツにしたい
「明彦からの伝言。結婚指輪は、サワイのライトが照らすショーケースに、二人で見に行くようにって」

「もう、社長らしいですね」

 真理子は目じりの涙をゴシゴシと拭うと、くすくす笑いながら肩を揺らす。


 すると急に、成瀬がぐっと手に力を入れ、真理子の身体を引き寄せた。

 真理子はされるがまま身をゆだね、鼻先すれすれに成瀬の顔が近づく。


 その瞬間、真理子の脳裏に、あの日の光景が蘇る。

 成瀬のヒミツを知ってしまった日。

 まるで策略にはまるかのように、強引に家政婦に引き込まれた、あの日のことを……。


 ――あぁ、そうだ。

 ――私たちは、あの日、ここから始まったんだ。


「水木真理子さん」

 成瀬は悪戯っぽくにんまりとほほ笑むと、長い指先で真理子の顎をくっと持ち上げた。

「あなたには、私のパートナーになっていただきたい」

 あの日と同じ、成瀬の甘く低い声が耳元で響く。


 ただ一つ違うのは、今真理子の左手の薬指は、まるでイルミネーションのように、キラキラと輝いているということ……。


 真理子はにっこりと口元を引き上げると、吸い込まれそうな愛しい瞳を見上げた。


「はい。なります。あなたのパートナーに……」



【完】
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