成瀬課長はヒミツにしたい

噂のクール王子

 しばらくすると、ポンという音と共にエレベーターの扉が開く。

 数人の社員に続いて、真理子も中へと乗り込んだ。


 ――どこかに恋が落ちてるわけじゃあるまいし、自分の得意なことを生かして、仕事に生きるしかないのかなぁ……。って、そもそも私の特技って何?!


 ダメだ。こんな時は、思考がどんどん下り坂になってしまう。

 真理子が頭を振りながら、ふと横を見ると営業部の女性社員達が、朝から楽しそうな声を上げている。

「ねえ。昨日、成瀬(なるせ)課長がフロアに来てたんでしょ?」

「そうそう! 珍しいよね。でも、めちゃくちゃカッコよかったぁ」

「あのセクハラ部長が、左遷された時もフロアに来てたじゃない? 今回も何かあるのかもって噂……」

「異動があるって事?」

「わかんないけどね。にしても、あの“クール王子”の笑った顔って、一度でいいから見てみたいよね」

「きっと、二人きりの時だけ見せる、甘い秘密なんだよ」
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