私の新しいパーティーメンバーが勇者よりも強い件。
 

 私の名前はオルガ。
 職業は『戦士』。
 しかし、今はパーティーを募集中の身である。
 冒険者の集まる酒場に連日通い、『パーティーメンバー募集中』の立て札を立てて誘いを待っている日々だ。
 だが、故郷から遠く離れたこの地で私をパーティーへ誘ってくれる者など現れない。
 もういっそ故郷に帰ろうか。
 いや、帰れるならすぐにでも帰りたい。

 だが金がない。

 酒場の女将さんに一人でもこなせそうなクエストを紹介してもらいながら日銭を稼ぎ、それ以外の時間をこうしてパーティーメンバーを募る時間に使う。
 そろそろ二週間…今日も私に声をかけてくれるような冒険者は現れなかった。
 この酒屋で貸し出している『パーティーメンバー募集中』の立て札を女将さんに返して、酒場の二階に併設されている宿屋へと戻ろうとする。

「今日もだめだったみたいだね」
「ああ…条件が厳しすぎるからな…。分かってはいるんだ。だが…」
「そうだねぇ、あんたは故郷に帰りたいんだもんねぇ。…とは言えここから東の大陸の最東端のラコ村は遠い。“女一人”で旅して帰るにはキツいからねぇ…」
「…私も『戦士』として最低限腕に覚えはあるが……大陸を渡るとなると一人では心許ない。せめて王都までの道のりだけでも、共に戦ってくれる仲間がいればいいのだが…」

 ここは西の大陸、バオテンルカ王国の南西に位置するカホスの街。
 私の故郷は東北の小さな大陸、その更に最東端の田舎村…ラコ。
 ただ故郷に帰るだけなのに、何故こんなに苦労しているのかというと…………。

「…それにしてもマティアスティーン王国の勇者は血も涙もない男だねぇ。幼馴染の“女の子”を、他国の、縁も所縁もない街に置き去りにして行くなんて」
「そんな…。いいんだ、女将さん。あいつは私よりも遥かに危険な魔王討伐の為に最前線へと赴いている。私の実力がそれに伴わなかっただけの事だ」
「だとしても無一文で、しかも装備一式売っぱらわれたんだろう? 魔物のうろつくこの時代に…畜生の所業だよ!」
「それも構わないさ。あいつらの旅の助けになるのなら…。それに、女将さんが剣や装備を譲ってくれたじゃないか。お陰でクエストにも出掛けられる」
「だってそれ、ここに立ち寄る男戦士たちのお下がりだよ? バックルなんて壊れてるしさぁ。…本当ならもっとちゃんとした装備がありゃあ、もっと割りのいいクエストにも出られるだろうに」

 …まあ、確かに。
 男用の装備、特に鎧は…重いし少し大きい。
 だが、幸い私は女にしては男に間違われるくらい体格にも恵まれている。
 問題はない。

「…あんたって子は本当に…。…うちの国の勇者が選定されりゃあパーティーにお薦めしたいくらいいい子だねぇ!」
「いや、いや…」

 これには心から首を横に振る。
 他の勇者のパーティーなんて、私は…。

「正直、勇者のパーティーはこりごりだ…」
「まあ、それもそうか…。夜に来る冒険者たちにもあんたのこと聞いておいてやるよ。今日はゆっくり休みな」
「ありがとう」




 …………パタン。



 二階の宿屋。
 自室として借りている部屋に入ってから鎧を脱ぐ。
 男ならガリガリに細いが、女としてならそこそこ筋肉はしっかりついた腕や腹。
 部屋着に着替える。
 安い布のチェニックと、茶色いズボン、木の靴。
 髪は短くボサボサ。
 男物の服も難なく着れる身長と、出っ張りのない身体は見慣れたものだ。
 部屋にある家具はタンスと椅子とテーブル、そしてベッド。
 溜息を吐いて椅子ではなくベッドへと腰掛ける。

「…………」

 カルセドニーの言う通り、私は女らしくない。
 女として生きてきた訳ではないので、これまで意識したことはなかった。
 でも、一ヶ月程前に信じていた幼馴染に言われた言葉はどんどん私の心を重くしていく。



 この世界『クリラーティカ』は五年前から異世界より現れた魔王軍によって侵略を受けている。
 それから間もなく『クリラーティカ創生の神』と名乗った者が各国の首都に石の剣を与えた。

 聖剣…神はそう申されたそうだ。

 各国の王たちは聖剣を抜いた者を勇者と定め、魔王を倒すようにおふれを出す。
 勇者となり魔王を打ち倒した勇者にはどんな願いも叶えると。
 各国の若者がこぞって聖剣を抜こうと自国の首都へと殺到した。
 私の幼馴染、カルセドニーもその一人。
 そして…カルセドニーは故郷『マティアスティーン王国』の勇者になった。
 カルセドニーが聖剣を引き抜いた時のことは今でもはっきり思い出せる。
 石の剣が引き抜かれた瞬間、輝きを放つ純白の剣に変わり…カルセドニーは勇者になったのだ。
 他にも勇者が選定された国はいくつかあり、国同士が自国の勇者に魔王を倒させようと支援するのが今の『クリラーティカ』だ。
 …しかし、五年経っても魔王軍…魔王は未だ健在。
 むしろ、南西の大陸は魔王軍に呑まれ…人の住めない土地となった。
 南西の大陸に住んでいた人々はほとんどが殺されたか、魔族へと変えられたと聞く。
 そして南西の大陸唯一の王国『ベルチェレーシカ』の姫君は魔王の妻にされてしまったという。
 姫を救い出すという新たな任務も加わり、各国の勇者たちは競い合い魔族の領域へと赴いている。
 私もカルセドニーの力になるべく、彼と共に故郷を離れ…南西の大陸に最も近い中央大陸からここ、西の大陸バオテンルカ王国まで同行して来た。
 しかし、ここの一つ先にある街で…私はカルセドニーに「レベルが足りない。足手まといだ」と言われて同行を拒まれたのだ。

「…………………」

 ここへ来るまでに仲間にした魔法使いナナリーと、マティアスティーン国王が勇者の助けとして同行させたマティアスティーンの姫君、エリナ様に比べれば確かに私は美しくないし女らしさも全くない。
 まるで男を相手にしているかのような気分だ、と昔から言われてきた。
 だが、それがカルセドニーにとって負担になるなんて思わなかった…どうして気付いてやれなかったんだろう。
 父が『戦士』、母が『格闘家』だった私は昔から剣や格闘技を習い、女としての己を磨くことはしなかったが…まさかそれを不満だと言われる日が来るなんて。
 今更女らしくなんて出来ない。
 レベルは正直…あのパーティー中では一回りほど高かったけど…(※パーティーレベル平均35に対しレベル54)。

 確かに女性らしさのレベルはあのお二人には到底敵わない…!


「寝よう」

 頭を振って、ベッドに入る。
 これからのことを考えるんだ、過去など振り返ってもどうしようもない。
 とにかく故郷へ帰ろう。
 その為にお金を稼ぐんだ。
 故郷に帰って…村を守る自警団に入る。
 魔王討伐に尽力する事は叶わなかったが、故郷を守る事は私にもできるはず。
 魔王はきっとカルセドニーが聖剣の力で討ち滅ぼしてくれるはずだ。
 私はカルセドニーが帰る故郷を守ろう。
 だから、とにかく明日からもより上位のクエストをこなせる仲間を…見つけ………ない、と…………。










【改ページ】
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 翌朝も女将が格安で手に入れて譲ってくれた鎧や盾、剣を身に付け酒場に降りた。
 酒場は昼間は普通の食堂で、朝は宿の主人がシェフを兼任している。
 当たり前だが、酒場の女将の亭主だ。
 恰幅の良い髭の生えた店主が、降りてきた私へにこやかに「おはよう」と言ってくれる。

「おはようございます」
「今日もパンとベーコン、ミルクでいいかな」
「もちろんです。宿代と朝食代を格安にしていただいているだけで…頭が上がらないのですから」
「いやいや。あんたみたいな苦労人見てると世話したくなっちまうからねぇ。…今日こそ、いい仲間に出会えるといいんだが」
「はい」

 難しいのは承知の上だ。
 この辺りに集まる冒険者たちは、勇者ご一行のおこぼれを狙う上位のハンターが大多数を占める。
 魔王たちに奪われた南西の大陸に最も近いここは、言うなれば最前線の一つ後ろ。
 魔物は多いし、強力な奴ばかりだ。
 休息を取りに戻る勇者ご一行にパーティーメンバーとして誘われる可能性もある。
 私のように故郷に帰りたい者と一緒に最前線を離れたい奴は、よほどの大怪我人か根性のない低レベルな場違い冒険者くらいだろう。
 この際、そんな場違いな低レベル冒険者でもいいんだが…あまり弱い奴だと高額クエストには連れていけない。
 私の装備が万全なら弱くてもフォローしてやれるが、この通り女将さんが男の冒険者たちから格安で買い取った壊れていたり使い古された中古品ばかり。
 これではちょっと…それは難しい。

「この辺に来る冒険者たちは血の気の多い、野心にまみれた奴らばかりだからなぁ…」
「私でも出来そうなクエストは来ていますか?」
「ああ、一つあるよ。この街の端っこにある農場に最近狼型の魔物が出るらしいんだ。そいつを退治してほしいらしい。農場主によると毎夜一匹で現れては鶏を一羽、かっ攫って行っちまうんだと」
「それは迷惑な話ですね。分かりました」

 一匹ならこの装備でもやれそうだ。
 しかし、夜か…。
 それなら今日は日中ずっとパーティーメンバー探しをする事にしよう。

「いただきます」

 出された食事を平らげて、『パーティーメンバー募集中』の立て札を借りる。
 すっかり習慣化してしまったな。



 しかし、昼。

 女将さんが起きてきたところで、私に新たなクエストが発生する。


「え? 買い出しの手伝いですか?」
「そう、切れちまった種類の酒がいくつかあるんだよ。隣町へ買い付けに行くから護衛しとくれ。もちろんお金は払うからさ」
「女将さん…」

 荷馬車の準備をしながら女将に言われて、少し気持ちが晴れた気がした。
 毎日毎日、人の少ない酒場で実りのない『パーティーメンバー募集中』の立て札の横に日がな座っているのは意外と心が疲弊するものなのだ。
 しかし、この周辺の魔物のレベルを考えると私の装備では心許ない。
 他にも何人か護衛を雇うことを薦めて、メンバーが集まるのを待つ事にした。
 女将さんの人徳だろう、すぐに二人の男戦士が手を上げて護衛に参加してくれる。

「俺はガンツだ」
「私はオルガ」
「オレはドジー。よろしくな」

 こうして戦士三人の護衛パーティーが組まれ、荷馬車に乗り込む。
 それほど大きくない荷馬車にゴツゴツした男と女が乗るだけでも、酒の積むスペースがなくなる気がする。

「お前も戦士なんだろう? いつも酒場でパーティーメンバーを募集しているよな?」
「え? ああ」

 移動が始まってすぐに話しかけてきたのはドジーだ。
 ニタニタと笑う表情は、こちらを揶揄うことしか考えていないように見える。

「レベルは幾つなんだ?」
「54だ」
「え⁉︎」

 …恐らく私が弱いからメンバーが見つからないのだと思っていたのだろう。
 残念ながらこの周辺の魔物の平均よりはだいぶ高い。
 しかし問題は装備。
 磨り減った剣では、どんなにレベル差があっても一撃で魔物を倒すのは不可能だ。
 だから、私の装備や、いつまでも仲間が見つからないことへにやにやと笑っていたドジーと、恐らく同じことを考えていたらしいガンツは表情を一変させる。

「あ、あんたそんなにレベル高いのか⁉︎ なんでそんなレベルなのに勇者にも誘われないんだよ⁉︎」
「いや、元々はマティアスティーン王国の勇者と共にここまで旅をしてきたんだ」
「勇者の仲間だったのか⁉︎ ど、どうして…」
「…私が勇者の足手まといになってしまったのだ。…幼馴染故に口が過ぎたのだろう…彼はもう、私の知る彼ではなかったのに…」
「勇者の幼馴染!」

 ワイワイとはしゃぎ出すガンツとドジー。
 聞けば二人は勇者ご一行の仲間になりたくて、自慢の腕を磨いてここまで旅をしてきたらしい。
 しかし、まだ勇者たちには会えておらず、偽物をつかまされたこともあるそうだ。
 勇者の偽物だなんて…と思うが、この世界を救う勇者にお布施をと思う民は少なくないらしい。
 そうした者たちから金をせしめようとするなんて…卑劣な奴らもいるものだ!

「しかし勇者ご一行の仲間になっても外されることがあるのか…そいつは考えてなかったな」
「あ、ああ、仲間になれば魔王討伐に協力して一攫千金も夢じゃねぇと思っていたんだがなぁ」
「すべての国の勇者がそうだとは限らないさ。…たまたま、私は幼馴染が勇者になった。だから、ここまで共に戦えたのだ。…しかし、それが逆に彼の枷になったのだろう」
「難しいな。成る程、それで故郷に帰る為にパーティーメンバーを探していたのか」
「ああ。あいつの路銀のために装備は全て売ってしまったからな…」
「? 勇者ってのは国に援助してもらえるんじゃあないのか?」
「マティアスティーンは小国だから…その、援助はしてもらえるんだがそこまでの大金は…」
「そ、そうだったのか…勇者が所属する国によって援助にも差があるんだな…初めて知ったぜ…」
「こりゃあ付いて行く勇者も考えねーと…」

 …………私は二人に何を話しているんだ…。
 なんだか二人のアドバイザーのようになってしまったが、そうこうしている間に隣町へと到着した。

「ふう…。さぁ、あんたたち! 酒蔵に着いたよ! 運ぶの手伝っとくれ!」
「へーい」

 緑豊かな土地だ。
 西の大陸は砂漠があると聞くが、ここよりもっと西の方なのだろうか。
 女将を手伝って、樽を荷馬車に積み込む。
 護衛というより完全に樽運びが仕事になっているな。
 だが、やはり身体を動かすのは気分がいい。
 ガンツとドジーという戦士の知り合いもできたことだし、二人があの街にいる間、一度くらい手合わせしてもらおうか。

「よし、こんなもんかね。…おや?」

 酒樽の料金を支払った時、女将さんが荷馬車の前で歩を止める。
 暗雲が…私たちの来た方向に立ち込めているのが見えた。
 あれは…ただの雲じゃない!

「女将! 早く街へ戻らねば!」
「そうだね、洗濯物干してきちまったし」
「違う! あれは魔物の群れが放つ瘴気を吸った雲だ! カホスの街が襲われる…いや、あるいは…もう!」
「な、なんだって…⁉︎」

 魔王軍の魔物は、野をうろつく下級以外に戦略的に町や村を襲う上級から中級の知恵のあるものがちらほら存在する。
 そういう知恵の回る魔物は、脳みそのない下級の魔物を集めては街や村を蹂躙するのだ。
 人の街や村から食べ物や女を奪い、自分より上の魔物に献上し、力や地位を与えてもらう。
 カホスの街は村とは呼べない規模だが、街としては小さな方だ。
 西の隣街…カルセドニーたちと私が別れた街『コホセ』はもっと大きな街だったので魔物たちもそう易々と手は出せない。
 だから…カホスの街を狙ったのか!
 だが、あの街にもそれなりに冒険者たちは集まっている。
 簡単に蹂躙されることはないと思うが…。

「急ぐよ!」
「あ、ああ! こいつぁ、冒険者として俺たちの腕の見せ所じゃあねえか!」
「そうだぜ女将さん! オレたちの出番がなくなる前に、早めに頼むぜ!」
「分かってるよ!」

 ガランガランと馬が走り、小石を車輪が踏むたびに荷馬車が跳ね上がる。
 重い酒樽がいくつも乗っているので、樽に押し潰されそうになるがそんなこと気にしている場合じゃあない。
 ほんの30分ほどの距離なのに、こんなに遠く感じるなんて…。

 ガララン、ガララン。

 馬の嗎き。
 どんどん濃くなる黒い雲。
 カホスの街が見え、私たちは剣の柄を掴む。
 荷馬車から飛び降りてすぐに戦いに参加できるような態勢を取る。

「!」

 しかし、街に着いた途端に暗雲は消え去った。
 耳をつんざくような轟音の落雷と共に。

「…………これは…魔法…?」
「魔法だと? カホスの街に魔法使いの冒険者なんていたか?」
「い、いや…俺は知らんが…。新しく来た奴かね?」
「どちらにしても、街全体を覆う瘴気を消し去るほどの魔法使い…。どこかの国の勇者が連れている魔法使いかもしれないな」

 私の言葉に女将さんが安堵の表情を浮かべる。
 勇者が街に立ち寄ったタイミングで、魔物の群れが襲って来たのか…はたまた勇者を狙った魔物の群れが襲って来たのか。
 どちらにしても、街全体の魔物を一気に雷の魔法で一掃したと思われる。
 それほどの魔法使い…大国の魔法使いに違いない。
 そして、そんな魔法使いを連れているのは大国の勇者以外に考えられなかった。
 馬の歩を緩め、街の中へと入って行く。
 やはり街にはいくつかの焦げ跡以外、魔物の姿は見受けられなかった。
 荷馬車は何かに襲われることもなく、無事に酒屋兼宿屋の前に停車する。

「私は街を見回ってくる」
「オレたちも行くぜ」
「頼んだよ!」

 停まった荷馬車から飛び降りて、魔物の残党と件の魔法使いを探す。
 勇者のパーティーだとするならばガンツとドジーにはまたとない機会。
 私は…一抹の期待。
 …ありえないとは分かっているけど、もしかしたらカルセドニーたちが戻って来たかもしれない…。
 謝って、話をしたい。
 もう一度…。


「これ食べれると思う?」
「え〜、食べるの? ボク嫌だなぁ〜」


 街の噴水広場。
 噴水の縁に腰かけた若者が真っ黒な巨大な塊を蹴り飛ばす。
 その横には美女。
 私たちは立ち止まる。
 あの黒い大きな塊は…きっと中級の魔物だ。

「君たち!」

 思わず声をかけてしまう。
 振り返った二人の若者はどちらも美しい顔立ち。
 黒く艶のある髪、夜空のような瞳。
 高価な絹のドレスのような服の美女と、萌黄色の全身を覆うマント男。
 男の方が勇者だろうか?
 近付くと「ん?」と違和感を覚える。
 美女…だと思っていたが、男…?
 それに、同じ顔?

「えっと、これは君たちが?」

 見下ろす…いや、見上げた黒い塊は焦げ臭い。
 噴水の縁に座っていた男が立ち上がって「そうだよー」とにこやかな笑顔で告げる。
 や、やはり。

「…私は、戦士オルガ。君たちは…?」
「? …ああ、名前? 僕はアレク。こっちは弟のクリスだよー」
「おと…弟ぉ⁉︎」
「初めまして」

 にこやかな二人は同じ顔で微笑む。
 なんとなく…女性には見えなかったが弟…。
 長い黒髪を背中に垂らしたクリスという男性は胸に手を当て、驚く私たちに頭まで下げてくれた。

「は、初めまして。…ええと、この大きな魔物を仕留めたのは」
「はーい」
「では君が魔法使い…」
「魔法使い? 別に魔法使いじゃないよ」
「え?」

 マント姿の…アレク…はそうキョトンと言う。
 仕留めたのが彼だというからてっきり彼が魔法使いなのだと思ったが違うのか?

「ゆ、勇者に同行する魔法使いではないのか?」
「勇者?」
「…勇者がいるの? ふ〜〜ん?」
「え?」

 唇に指を当てて面白そうに微笑むクリス。
 誤魔化すように「なんでもな〜いよ。ボク達が居たところに勇者はいなかったから〜」と微笑む。
 …勇者の存在の、噂も届かぬ田舎から出て来たのか?
 それにしては良い召物を纏っているようだが…。

「勇者がいるなんて面白いね〜。勇者って強いんでしょ〜う? 遊んでくれるかな〜?」
「んもー、クリスはすぐに遊ぶことばかり…兄様達に怒られちゃうよー?ちゃんと見聞を広げるように旅をしないとー」
「見聞ってどうしたら広まるの?」
「僕に聞かれても自分で考えないと…兄様達にもそう言われたし」
「…めんどくさぁ〜い。自分の国のことなら少しは考えるけど…他国のことまで考える必要あるの〜?」
「それが見聞を広げるって事じゃないのー?」
「あ、そっか〜。でもやっぱりめんどくさ〜〜い」
「んもー」

 …なんてゆるい会話…。
 い、いや、そうではなくて…。

「そ、その話…まるでどこぞの国の王族のようですね」
「うわ、一発でバレた…」
「え⁉︎ ほ、本当に…王族の方々⁉︎」

 すぐに膝を折り、私たちは彼らに頭を下げる。
 どこの国の王族の方々は存じ上げないが、会話から察するに上に兄君がいらっしゃるようだ。
 ということは、王位継承の順位がそれほど高くない…しかし、王族として見聞を広め、立派に王族としての務めを果たされようと旅に出たばかり…分からぬことも多い方々なのだろう。
 それならば勇者のことを知らないのも致し方ない…………のか?

「失礼を致しました。この度は街を襲撃した魔物を倒してくださりありがとうございます。この街に世話になる冒険者の一人として感謝いたします」
「あー、そーゆーのいいですー。僕たち通りすがりなのでー。それに別に面白くなかったしー、力のない弱い民を守るのは強い奴の務めでしょー?」
「…………」

 少々子供じみた方ではあるが、にこやかに民を思い遣る。
 きっとこの方のご両親や兄君たちは立派な方なのだろうな。

「ありがとうございます…」
「なんでお礼を言われるのか分かんないー。まあ、言われて悪い気はしないけどー」

 ぐうううう。

「…………」
「えへ」

 笑って誤魔化すが、今の腹の音はまさかこの若者の?
 …王族ということは王子ではないか。
 その王子が、腹を空かせている、だと⁉︎

「あ、あの、失礼ながらお二人は使用人や護衛などは…」
「いないよー」
「ボク達の一族は少し特殊でね〜、自分のことは自分で出来ないとダメなの。だから、今この丸焦げにしたやつを食べようかどうしようか考えていたところ〜」

 …は? 食べ…?
 クリス様の指差したモノは、丸焦げた魔物の死骸。
 それを、お、王族が食べ…?

「なりません! すぐに食堂へご案内します!」
「え? 食堂あるの? わあ〜、ありがとう〜」
「あ、待ってクリス、でもお金ないよ?」
「大丈夫。ほら、なんか知らないけどアレクがやっつけた魔獣っぽい生き物達からお金ががっぽり〜」
「わあ、ほんとだー」


 ゆ、ゆるい…!


 …恐らくガンツ達も同じことを感じたと思う。
 世間知らずな空気を遺憾なく発揮しておられるが、どうしてこんなに世間知らずな王子達を付き人もなしに城から出したのだろう。
 世間の厳しさを学ばせるというのならお目付役の一人でも付けてやれば良いのに…。

「お、おい、オルガ、この二人本当にどこかの王族なのか?」
「これほど無防備で、これほどの魔法を使えるとなれば王族である可能性は高いと思う」
「な、なるほど…。少なくともただの子供じゃねーってことか」

 二人は顔を見合わせると、頷き合う。
 なんとなく、あまりいいことを考えているように見えない。
 立ち上がると二人はにニコニコといかにもよそ行きの笑顔を浮かべると…。

「えーと、王子様…」
「えー、やめてー、即バレしたの兄様達にバレたら怒られるよー。アレクでいいよー」
「ボクもクリスでいいよ〜」
「し、しかし…」
「分かりました、アレク様、クリス様」
「様もいらないよー」

 17か、18…私と同い年くらいに見えるが…中身はもっと幼いように見受けられるな。
 どこの国の王子か知らないが、これでは悪い大人に騙されてしまうのでは…。

「お二人はどこの国の王族の方…なんですかね?」
「えー、君たちに言っても分からないよー。それよりお腹すいたー。食堂どーこー?」
「あ、こ、こちらっす!」
「じゃあもうこのお肉はいらないね〜。えい☆」

 クリス様が指で弾くように黒焦げの塊を指差すと、途端にそれは真っ黒な炎になり消えていく。
 唖然とした。
 …これは、なんの魔法だ?
 魔法には明るくないが、詠唱を行わないと魔法は使えないのでは…。
 少なくとも私がカルセドニーと共に旅をしたナナリーやエリナ姫は長い詠唱を行わなければ魔法は使えかなった。

「い、今のは…?」
「さあ? でも、殺しても大丈夫なんでしょ〜う? 魔物って…」
「え、そ、それはまあ」

 魔物を殺さないなんて…。
 そんな事をして逆に大丈夫なのか?
 …でも、頭の弱い下級の魔物達は知恵のある魔物に使われるだけ…。
 そう考えると、確かに哀れな存在かもしれない。

「ご、は、ん、ご、は、んー」

 無邪気にガンツたちについていくアレク様。
 その後ろに私とクリス様も続いた。
 どこの国の王子かどうかは、どうやら我々に教えるつもりはないようだが。
 下々の民である我々が、王族の方とこんな気軽に会話することも本来ならありえないこと。
 それにしても、先ほどの魔法?といい、街全体への雷の魔法といい…物凄い実力を持っているのだな。
 だが、どんなに実力があっても…やはりこんなに無邪気な子供を二人だけで旅をさせるのは危険なのでは…。

「王子様たちは、勇者様と旅されてたんですかい?」
「違うよー。兄様たちに子供だから大人になって帰っておいでって言われて出てきたんだよー」
「ボクたちちゃ〜んと大人なのに、ね、アレク」
「ねー」

 いやいや…。
 お兄様のご心配はごもっとも……でも、さすがにこの二人だけで旅をさせるのは誤断です。
 一体どこの国の王子なのだ、こんな無茶振りをされるのは。
 確かに見目は私と変わらない年齢に見えるが、中身はあまり成長されてないようにお見受けする。

「ち、ちなみに、お二人はご年齢は…」
「今年で15さーい」
「15歳〜」

 歳下だった!

「…うちの国の成人年齢は18歳だからー、年齢的には未成年だけどー…もう大人だよねー?」
「ね〜」
「そ、そうなのですね…」

 まあ、先ほど見た戦闘能力に関しては“普通の大人”をゆうに超越しているな。
 もしかしたら、聖剣を持つ勇者すらも…。
 い、いや、さすがにそれは考えすぎか…。
 カルセドニーは今頃、私と居た時以上に聖剣を使いこなせているはずだ。
 他の勇者は分からないが、魔物に関して勇者以上に戦える者などいないだろう。
 なんにしても、未成年の子供…にしては大変整った顔の美青年たち…クリス様に至っては美女にすら見える…を、たった二人だけで旅させるのは危険だ。
 食堂に辿り着いて、女将に事情を説明するとすぐに店主とともに食事を作って出してくれた。
 二人が食べている間に、私たちは酒樽を店の地下の酒蔵へと運ぶ。
 全ての樽を運び終えてから、女将からお金を支払ってもらった。

「兄様の作ってくれるご飯の方が美味しい…」
「そんなこと言ったらダメだよクリスー」
「だって〜…」
「あはは! いい男に見えて本当に中身はお子様だねぇ! お兄ちゃんがご飯を作ってくれるのかい?」
「うん、シェフもいるんだけど…僕らすぐお腹空いちゃうんだー。朝とお昼の間と、昼と夜の間にもご飯を食べないとお腹がグーグー鳴るんだー」
「へぇ、そうかい。成長期なんだねぇ。…ん? シェフ?」
「王子様らしいぜ」
「え‼︎」

 ドジーが女将に耳打ちする。
 やはりさすがの女将さんと店主も王族と聞けば驚いた顔をした。
 そして急にあわあわと慌て出し「すまないねぇ、あ、いやすみません…粗末なものしかお出しできなくて」と頭を下げる。

「どうして? この国の民が一生懸命作った素材で、あなたが頑張って料理してくれたんでしょう? ちゃんと食べるよー。ねえ、クリス」
「う、うん…あんまり好きじゃないけど全部食べる」
「む、無理なさらないで! 王族の方の口になんて合わないでしょうし…!」
「気にしないでー、クリスは野菜が嫌いなだけだからー。ほら、お兄ちゃんがサラダ食べてあげるー」
「ほんと、アレク? ありがとう〜」
「もー。その代わりスープは全部飲むんだよー?」
「うん」

 その場の皆が、顔を見合わせる。
 見た目は立派な美丈夫に見えるが…中身はなんともほのぼのとした子供達。
 女将さんもなにやら二人のことを気に入って、満面の笑みを浮かべると「それなら肉でも焼いてやろうかね!」と腕をまくる。
 魔物が闊歩するようになってからは、家畜は人以上に魔物に餌として狙われてしまう。
 故に、肉は高級品。
 鶏肉だってそうそう食べられるものではなくなった。
 それをポンと出すというのだから、さすが女将さんだ。




「それにしても、あんたたち王子様なんだろう? どうして二人でお国を出てきたんだい?」

 人心地ついてから女将さんが切り出す。
 デザートのフルーツまで要求した双子の美青年たちは、女将さんの言葉に口を開けたまま止まる。
 そして「見聞の旅ー」と間延びした声で答えた。
 それは先ほど我々も聞いたもの。

「あんたたちだけでかい? お付きの人は?」
「うーん…僕らのお母様の一族は大人になるのに旅をする習わしがあるんだよー。厳しい修行の旅をしてー、力を正しく使える立派な大人にならないといけないんだー。一番上の兄様も旅が好きでー、色んな場所を巡って民の声を聞くんだってー。王族たるもの国民の声をきちんと聞けなければダメだからー」
「…ご立派なお方なのですね…」
「そだねー、ちょっと気持ち悪い時あるけど基本的に立派な王太子だと思ーう」

 その横でお茶を優雅に飲むクリス様。
 ほお、と安堵の表情で息を吐いて、私たちと会話していたアレク様の小皿からひょいひょいと果物をかすめ取っていく。
 …う、うーん…アレク様は気付いていてもなにも言わない…。
 双子とはいえ、ちゃんとお兄ちゃんやってらっしゃるな…!

「だからほんとは、僕らも一人ずつ旅をしないといけないんだよー。でも初めての旅だから、二人で力を合わせて頑張っておいでってー」
「そうなのですね。…それで、なにか具体的な目的などはおありなのですか?」
「特にないけどー、まずはこの世界について詳しく学ぼうと思うー。僕ら世間知らずな自覚はあるからー」
「ご立派です」

 ちょっと感動してしまう。
 どこの国の王子かは知らないが、民の声を聞くためにお供も付けず自分たちの力だけで旅をしようなんて…!
 喋り方などから中身は子供と侮ってしまったが…しっかり王族らしい、立派なお考えをお持ちなのだな!

「…そうだ! それならオルガと一緒に行ったらどうかね⁉︎」
「私ですか⁉︎」

 店主が手を叩いて「名案」とばかりに話を振ってくる。
 クリス様は相変わらずアレク様の皿の果実をヒョイヒョイ食べているが、アレク様は真面目な顔で私を見上げてきた。
 …改めて、なんて美しい青年だろう…。
 こんなに美しく整った顔の人間を、見たことがない。
 共に旅をした故郷の姫君、エリナ姫も美しかったが…彼らは最早人ならざるもののような妖しい美しさが漂っている。
 見つめられると緊張で胸が張り裂けてしまいそうだ。
 …これが、王族の持つ王気(おうけ)というものなのだろう。

「どーゆーことー?」

 だが喋ると台無しだな!
 首を傾げる姿はただの愛らしい子供だ!

「…あ、あの、実は…」

 …………私の事情を説明する。
 故郷を幼馴染の勇者と共に離れ、ここまで旅をしてきたこと。
 そして、ここより一つ先の街で別れたこと。
 故郷に帰るには、一人では難しいこと…。
 全て話すとアレク様は「ふむふむ」と頷いて…。

「なんで一人で帰れないのー」

 とかなりごもっともなことを仰った。
 いや、だから…。

「道中には強い魔物も出ますし、お金が…」
「最近じゃ商人の馬車もうちの街をスルーしてそれなりにでかい街にしか寄らないんだよ。だから、商人の荷馬車の護衛で戻ることも難しくてねぇ…。あたしらが大きい街へ送ってやれりゃあいいんだが店があるし…」
「私一人のために、そんなこととても頼めません」
「だからオルガはせめて大きい街へ一緒に旅してくれる仲間を探してたのさ。どうだい、王子様たち、オルガとバオテンルカの首都、テンバルに行ってやってくれないかい? 二人とも強いんだろう?」
「お、女将さん! 王子たちは崇高な目的で旅をされているのです。私の事情に巻き込むわけにはいきません」

 私に同行させて王子たちの見聞が広まるとも思えない。
 そう断ろうとした時、アレク様は「いいよー」とやはり間延びした声で言い放った。
 な、なにいいぃ⁉︎

「お、俺たちもついて行っていいですか?」
「いらなーい」
「そ、そう仰らず!」
「えー、いらなーい。オルガ以外はお金が欲しいって顔に書いてあるもーん」
「え!」

 慌てて自分たちの顔を触って確認するガンツとドジー。
 …まあ、王族の方と一緒に旅をすれば国から報奨金など期待できる。
 上手く立ち回ればその国の爵位や地位を約束してもらえるかもしれない。
 この二人は、その欲望が顔にありありと出ていたのだ。
 この中身の幼そうな王子に見抜かれる程度には…。

「言っておくけどそーゆーの期待されても無駄だからー。うちの親も兄も僕らへの厳しさ半端ないからー。マジ無一文の着替え装備なしで追い出されたんだからー」
「え、ええ⁉︎」
「ほんとは王族なのも内緒だしー。……なんでバレたのー?」
「そ、それなりに会話でバレますが」
「そんなあからさまな会話してたかなー」
「民草からすれば、そうなのではないか、と感じる会話はなさっていましたよ」
「えー…うーん、困るー」

 そしてそんなアレク様の横でアレク様の分のフルーツを平らげたクリス様がお腹を満足げにさする。
 自由だな…。

「…………。では、こういうのはいかがでしょうか」

 なんとも毒気を抜かれる王子たちだ。
 仕方ない、私としても女将と店主の提案は…受け入れてもらえるのならありがたいと思う。
 だから、私の故郷への旅路に同行を願い出ることにした。
 彼らの世話…世俗のことを教えながら、私の故郷へ旅をする。
 それなら、お互いの利害は一致すると思う。
 もちろん、その間彼らの行きたい場所があるのなら私もそこへ同行する。
 彼らは見聞を広めるために旅をするのだ。
 私からすれば壮大な寄り道の旅も、彼らと彼らの国の民のためになるのなら喜ばしい。

「どうでしょうか」
「うん、それはいいかもー。好きなところに行っていいんでしょー?」
「はい」
「どうかな、クリス。僕はいいと思うんだけどー」
「アレクがいいならいいよ〜」

 なんとなくほとんど話を聞いていなさそうだったクリス様。
 こちらもアレク様とは違った間延びした声でニッコリ微笑む。
 …長い髪を左右で編み込んだクリス様は、なんとも…麗しい姫君に見えてならない。
 ずっと気になっていたのだが…。

「と、ところで、クリス様の、そのドレス? の、ような服装は一体…」

 お国の民族衣装だろうか?
 腰から足首までスリットが入った…しかし、下にはズボンをお召しだ。
 白く、そして不可思議な柄の入った肩掛け…?
 何故クリス様だけ…?
 私の質問にアレク様が「げっ」と嫌な顔をなさる。
 もしや聞いてはならなかったのだろうか?

「ボクはあんまり戦うのが得意じゃないから〜、動きやすい服は着ないんだ〜。それに、せっかく美しい容姿に生まれたのだから着飾って楽しまないと損でしょう〜? 本当は女性のドレスとかも着てみたいんだけど〜、それだとただの女装でしょ〜? ボクはね〜、女性のようなしなやかな美しさを取り入れた、美しい男というものを目指しているの〜。ただ着飾るだけなら誰でもできるから〜、ボクという個体をボクという究極に美しい存在にしたいわけ〜。分かる〜?」
「そ、そうなのです、か……は、はあ、なんとなく…」
「ほんと〜? あのね、ボクって顔はアレクと同じだけど〜、戦うのがあんまり得意じゃないでしょ〜? つまりそれってボクばボクってことなんだよ〜。だから〜、ボクはボクなりにボクという存在を美しさというジャンルで究極にしたいわけ〜。うちの両親とお兄様たちは戦闘脳なところがあるけど〜、ボクはそっち方面の才能がなかったわけで〜、だからつまりボクは戦闘以外を伸ばさないとダメって気付いたわけ〜。そうなった時に思ったの〜、ボクって超可愛くない? って。でも大きくなったらお兄様たちみたいなチョ〜美人系になるんじゃな〜いって。だったら可愛い系じゃなくて美人系の男としての究極? みたいなのを目指そう〜って〜。でもさその場合なにかが足りないと思うじゃない〜? 可愛さと綺麗さがもうあるなら他になにが必要って考えた時〜、男のボクが持ち得ないもの? それが欲しいなって思ったの〜。それって女性的な美しさじゃない? だからボクは女性的な美しさや可愛らしさを取り入れて〜、超絶究極美人なボクを目指すことにしたの〜。それでその目指すべきボクのために…………」

 ………だ……だめだ、途中から頭の中に入ってこなくなった。
 美しさ…に、こだわりがある、という…こと、かな?

「…うんうん、クリス可愛いよ綺麗だよ美人だよー」
「ほんと〜? もっと言ってもっと言って〜」
「世界一可愛いいよー。もはやクリスにはクリスだけの新しい褒め言葉が必要な時代が来るよー。よっ、新ジャンルー」
「うふふふふふ〜、でしょでしょ〜」

 …と、止まった…!

「…それでー、オルガの故郷ってどこにあるの?」
「! あ、ええと…」

 地図を取り出し、現在地と目的地…私の故郷の場所を指す。
 今いるのは西の大陸。
 中央大陸に渡り、そこからまた船で東北の大陸に戻らねばならない。
 その最東端が私の故郷だ。

「ふーん、意外と遠いねー。たくさん旅してきたんだねー」
「…………。…はい…」

 …これまでカルセドニーたちとの旅を思い出す。
 確かに…なかなか遠くまで来てしまったな…。
 故郷を出た頃とつい一ヶ月前別れたカルセドニーがあまりにも違い過ぎて…。
 あんなに変わってしまうまでどうして気付かなかったのかと、己が情けなくなった。
 カルセドニーは女性らしい、可愛らしい女性と旅をしたかったんだと。
 私のような無骨者が側にいては士気に関わるのだと、どうして気付いてやれなかったのだろう。
 優しいカルセドニーは私が気づくのを待っていたのだ。
 なのに気づけず、ついには怒らせてしまった。
 全て私の無骨者ゆえの鈍さが悪い。
 …そう、全て…私が悪いんだ…。

「…………」
「どうしたのー?」
「泣いてるの〜?」
「…い、いえ…。とにかく、今日は準備を整えて…明日ここを発ちましょう! …同行を受け入れて頂きありがとうございます。しばしの間、どうぞよろしくお願いします! 無骨者ゆえ無礼も多いと思いますが何卒のご容赦を…!」
「…うん、宜しくねー」
「よろしくね〜」
「良かったね、オルガ!」
「…女将さん、ご主人…はい! 一ヶ月もの間、色々ありがとうございました」


 こうして、私の新たなる旅の仲間が決まった。
 どこかの国の王族の方々と同行なんて、緊張するな。
 しかし、これでやっと帰路につける。
 …これまでの旅よりも遥かに長く険しい旅の予感しかしないが…それでも私の心は踊った。
 やっと、帰れる…。
 安堵感で胸を撫で下ろす。

 これが私の新たなる冒険の旅路の始まりだった。




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