重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 3

チェックメイト

「香澄の処女を奪った時、あなたは嫌がる香澄を無理に車に乗せて、海まで連れ去ったそうですね? 合意に沿わない行為は、ただの拉致です」

「らっ、拉致なんてしてません!」

「海まで連れて行かれた香澄は、あなたに逆らって怒らせれば、そのまま海に置いてけぼりにされて家に帰れなくなると思ったでしょう。……だから香澄は、無抵抗を決めた」

 もう佑は微笑んでいなかった。
 美しい瞳の色をしているのに、その目にはどこまでも深い闇が潜んでいる気がした。

「あなたは香澄が抵抗しないのをいい事に、彼女の処女を奪った。抵抗するのを諦めるという感情が、どんなものか分かっていますか? 自分の尊厳が蹂躙されても構わないとすべて投げ出したのです。きっとあの時香澄は、あなたにハサミで髪を切られても、ナイフで肌を傷付けられても、〝諦めて〟何も抵抗しなかったでしょう」

「そんな……」

 声を震わせる健二に、佑はやはり淡々と続ける。

「あなたは香澄を殴ったり、今言ったような酷い事はしなかった。それは事実でしょう。ですがあなたはわざと香澄を三時間待たせ、その間自分は他の女性と寝ていた。香澄に金を借りて返さなかったり、彼女を自分の所有物のように、自分の望む格好をさせようとした。挙げ句、香澄の気持ちを無視して性行為を強要した。……これらの事で、香澄の心は一度死にました。防衛本能であなたにレイプされた事を忘れるぐらい、香澄は深く傷ついたのです」

 自分と香澄の考え方の違いを今になって思い知らされ、健二は顔を強張らせる。

「……だって……、あいつは一言も『嫌だ』なんて言わなかった……」

 健二はもう、佑を敬った口調すら忘れていた。

「あなたが『嫌だ』など言わせなかったのでしょう? 香澄が自分の意見を通そうとしたら、あなたは香澄を責め立てて悪者にした。彼女が争いを好まない性格なのをいい事に、二年間も香澄の心をレイプし続けたのです」

「レイプ、レイプって……っ、先日だって香澄は自分の意思で来て、楽しそうに映画を見ていました。食事だって美味そうに食べて、『素敵な店』だと礼を言っていました」

「だから、ショックを受けて忘れていたからと言っているでしょう。そうやってあなたは、自分に責任がある事を認めない。最終的に香澄はあなたにどう反応しましたか? 大方、個室で迫って逃げられたのでしょう」

 図星を突かれ、健二は唇を引き結ぶ。

「……救えない男だ」

 それまでの口調とは打って変わって、佑が低い声で吐き捨てるように言う。

「み……、御劔さんだって、香澄に迫ったんじゃないですか? 香澄はつい最近まで札幌にいたそうですね? それをあなたが強引に東京に連れて来たんじゃないですか? 身勝手なのはあなたも一緒でしょう」

 自分ばかり責められるのは納得いかないと、健二が反撃する。

「否定はしません。多少、強引な手を使いました」

 サラリと肯定すると、健二は一瞬勝ち誇った顔をし、何か言いかけた。
 が、その前に佑は彼に質問する。

「それが何かあなたに関係がありますか?」

「……え?」

 開き直られると思っていなかったのか、健二はポカンとした表情になる。

「香澄はフリーでした。彼女を口説いて自分の側に置きたいと思うのに、あなたの許可でも必要なんですか?」

「……い、いや……。でも、やってる事は五十歩百歩だと言っているんです」

 なおも食いついてくる健二に、佑はうっすらと笑って目を細める。

「私は彼女と結婚したいと思っています。私はあなたよりずっと香澄を深く愛し、一生面倒を見て、セックスをするにも責任を持ちたいと思っています。何なら、香澄が仕事をしなくても衣食住すべてを満たす事もできます」

 マウントを取られ、健二は目の下を引き攣らせる。

「結婚する覚悟のある男なら、彼女を新居がある土地に連れて行っても問題ないと思いませんか? 勿論、香澄が望むならいつでもプライベートジェットで札幌に向かわせ、好きなように家族や友人に合わせる甲斐性を持ち合わせています。それのどこに、責められる要因があるのでしょう?」

 そのすべてを「お前にはできないだろう」と言葉の裏で言われ、健二は歯ぎしりをした。

(成金の嫌な奴だな! 本性が出た!)

 佑に何もかも敵わないからこそ、健二は唯一勝てる部分で彼にマウントを取ろうとした。

「俺のお古でいいなら、どうぞ幸せにしてやってください。俺はもう、あんな芋臭い女に興味を持っていませんから」

 男にとって最も屈辱的であろう言葉を吐き、健二はしてやったと言わんばかりに笑う。

 ――が、佑はフワッと微笑んでみせた。

「原西さんは残念な人ですね。いわゆる処女厨ですか? 女性の価値は処女にあると、本気で思っているタイプですか? それだと結婚は遠いですね。結婚は愛し合った女性を伴侶としてずっと共に生きていきます。人間に対して『飽きた』など簡単に言えるようでは、当分結婚はできないのでは……と思います。ご愁傷様です」

 鼻白む健二の前で、佑は笑みを深める。

「加えて、香澄の魅力は私だけが知っていればいいと思っています。あなたが知らない香澄の長所や魅力を、私は沢山知っています。香澄を痛めつける事しかできないあなたには、一生知る事がない美点です。たとえば、あなたとキスやセックスをしても一度も『気持ちいい』と思わなかったのに、私の前でだけはとても可愛い反応を見せる……など」

「~~~~っ!」

 佑は悠然と笑い、さらに追い打ちを掛けた。

「知っていますか? ダイヤモンドの原石は、くすんだ色をした石ころです。それを一流の技術を持つ研磨師が磨くからこそ、価値のある美しい宝石になるのです。私にはその技術がある。あなたには、どんな女性を相手にしても恐らくない。その差です」

「…………っ!」

(こいつ!!)

 喧嘩を売られ、健二は両手をテーブルに手をついて立ち上がった。
 佑は座ったまま、挑発に乗った健二を見て微笑んでいる。

「……不愉快です。帰らせて頂きます」

「――ああ」

 立ち上がってクローゼットからコートを出した健二に、座ったままの佑が声を掛けてきた。

「……いま『AKAGI』ではフローリストとコラボした、ウェア開発が進んでいるのですよね」

「な……っ」

 それはまだ公開されていないプロジェクトで、健二は思わず真顔で佑を見た。

「『AKAGI』の副社長と私は、友人です。絶対に口外しないという約束で、私的な時間に会い、仕事について話す事もあります」

「…………」

(まさか繋がりがあるのかよ! それで副社長から圧を掛けて脅すってか?)

 脳裏に浮かんだ『AKAGI』の副社長は、佑よりやや年上で社長の息子だ。
 確かに会社は近くにあるが、まさか上層部が繋がっているとは思わなかった。

「……副社長を通して、俺にパワハラを掛けるつもりですか?」

 低い声で尋ねた健二に、佑は「とんでもない」と微笑む。

「私はホワイト企業として連続受賞している、Chief Everyの社長ですよ? そんな真似をする訳がありません。……あ、原西さんは我が社の社員ではありませんけどね」

(性格悪ぃ!)

 最後に明るくつけ加えられ、健二は顔を引き攣らせる。

「……私が言いたいのは、下手な行動をしない方が身のためですよ、という事です」

「……な、何ですか」

 その他と言えばまったく身に覚えがなく、健二は身構える。
 佑は目を細めて眉間に皺を寄せ、哀れなものを見る目で笑った。

「打ち合わせのために来たモデルを、レイプしたそうですね?」

「な……っ、してません!」

 不意打ちを食らい、健二は怒鳴った。

(馬鹿な……! あれがバレる訳ないだろ!? しかもレイプって何だよ!)

 確かに佑の言う通り、『AKAGI』で進行しているプロジェクトに起用するモデルと仲良くはなった。

 だがそれは、相手から声を掛けられたからだ。

 撮影を見学して部署に戻ろうとした時、一緒にいた先輩が他の部署の上司に話し掛けられ、健二は先輩を待っていた。

 立っていると、モデルが話し掛けてきたのだ。

『こんにちはー。さっきから、格好いいなって思ってたんです。良かったら連絡先交換しません?』

 サラッと、ごく当たり前のように言われたので、健二は断る理由もなく応じた。

 そのあと、彼女から本当に食事に行こうと誘われて、イタリアンをご馳走した。
 そしてモデルから誘われて、一度だけホテルに行った。

 しかもそれはつい最近の事なので、会社や他の誰かに知られているはずもなかった。

「モデルの名前は、秋葉(あきは)さんで間違いありませんね?」

 ずばり本人の名前が出たが、健二は必死に唇を引き結んだ。

「秋葉さんは、Chief Everyとも契約しているモデルです。私も、他のモデルや重役を含めて、何度か食事会をした事があります。そして責任者として、万が一何かがあった場合、モデルたちの相談に乗る事もあります。私はCEPで直接モデルたちとやり取りしていますから」

 言われた言葉を理解するよりも、知らない間に自分がどんどん不利に立たされている事に健二は震えていた。

「秋葉さんから先日、私に相談の連絡がありました。『AKAGIの社員、原西健二にレイプされて死のうかと思っているが、その前に相談したい』……と」

「嘘だ!!」

 今度こそ、健二は大きな声を上げた。

「秋葉をレイプなんてしていない! 向こうから誘ってきたんだ! ヤッてる時だって凄い喜んでたし、俺はレイプなんてしていない!」

「ところが……」

 トン、とスマホを指でタップし、佑はコネクターナウの画面を見せてくる。
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