理系女子の初恋

佐々木3

「田中、佐々木、ちょっといいか」

主任に呼ばれ打合せスペースに入ると、資料を渡された。

「これ、田中が作った次の案件の詳細設計の資料」

「佐々木もそろそろ開発以外の仕事に触れてもらおうと思ってるから、とりあえずこの資料を読み込んでおいて、わからないとこは田中に聞いてしっかり潰す事」

「田中、次の会議から佐々木も出席できるように調整しておいてくれ」

「はい」

「あーそれと、タチバナ設計の接待の件、田中から聞いた」

「日時と場所は佐々木に任せるから俺と田中の予定を確認して向こうとの調整を頼む、詳細が決まったら報告して」

「はい、わかりました」

「田中はこのまま別件で打合せするから、佐々木は下がっていいぞ」

「はい、失礼します」

デスクに戻って、渡された資料に目を通す。

私は3年目の社員だと言うのに、まともに開発に携わるようになってまだ1年だ。

正直経験が足りないから、実際に詳細設計を一から作らせてもらえるようになるのは、まだまだ先の事だろう。

学生気分が抜けなくて随分と足踏みしてしまったのは悔やまれるが、それでもこうしてチャンスをもらえた事が純粋に嬉しい。

このチャンスを無駄にはしたくないし、遅れた分を取り戻す為にも、人一倍頑張らなくては。

「麻友ちゃん、どうよ?わかりづらいとことかあった?」

「あー、大体の流れは掴めそうですが、オブジェクト間のやり取りとかちょっと細かくなってくるとややこしくて、、」

「うんうん、慣れるまでは難しいよね、詳細設計はあんまり細かく書き過ぎちゃうとロジックを訳しただけの資料になっちゃうし、概要を理解させる為の物だからさ」

「慣れるしかないんですね」

「そう、数をこなしてる内に、呼吸と同じ感覚で詳細設計作れるようになっちゃうから」

「マジですか?」

「うん、主任は既にその域に到達しているとかいないとか、、」

「そんな訳あるか」

後から来た主任が、丸めた書類で田中さんの頭を殴る。

「システムの規模による」

「「、、、、え?」」

「アホか!冗談に決まってるだろ!2人して本気にするな!恥ずかしいだろが!」

主任が顔を耳まで赤くして怒り出した、、照れてるの?照れてるんだよね?

突然視界から主任が消えて、田中さんの背中が現れて驚いた。

「うわーマジか、主任の真顔ジョーク、わかりづら過ぎる、一周回って寒いっす」

そう言いながら、田中さんが主任と一緒にデスクへと戻って行く。

「お前、そうやってさりげなく人を傷付けるの、良くないぞ?」

主任がブツブツ文句を言っている、、かわいいな。

「麻友ちゃん!さっきのとこ細かく説明してあげるから、先に打合せスペースに行ってもらってもいい?」

「あ、はい!」

そうだった、今は勉強に集中しなきゃだな。
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