理系女子の初恋
「お疲れー」

無事に定時で仕事を終えて、池田君が予約してくれた居酒屋に入った。

「それで?不調の原因は?」

池田君が何の前置きもなく、いきなり直球で攻めてきた、彼も意外とグイグイくるタイプだったのか。

「うーん、何て言うか、私、今の部署に異動になって、色々あって、本来の自分を取り戻した感があったのね」

「あー確かに、この1年で、佐々木さん、少し雰囲気変わったもんね」

「そうなの、、自分で言うのは凄く恥ずかしいんだけど、大学の時、私、凄くモテて」

「うんうん、凄かったよね」

「みんなにチヤホヤされて、優しくされて、それが当たり前みたいになっちゃって、いつの間にか、自分がどんな人間だったのか見失っていたって言うか」

「元々の私は真面目だけが取り柄みたいなつまらない人間で、根暗だし、不器用だし、愛想もなくて、大食いで」

「ちょっとストップストップ、そこまで酷くないでしょ?」

「そんな事ないよ、だからチヤホヤされていい気分になって、みんなが求めてくれる人間になりたくて、もてはやされるまま、本当の自分を封印してたのかも」

「でもね、今の部署で頑張って仕事してたら凄く満たされたって言うか、今までがいかに空っぽだったか気付かされたんだよね」

「それが原因?」

どうしよう、池田君には話しても平気だろうか?

「違うけど、、もう少し飲まないと話せそうにないなー」

「おー随分もったいつけるねー」

池田君は凄くいい人だ、会社で孤立していた私を見つけて話し掛けてくれて、今も心配して話を聞いてくれている。

1年前の私とは違う、本当の根暗な私を見せても、そのまま仲良くしてくれる貴重な存在だ。

「池田君て、ちょっと変わってるよね」

「変わってるって、、何が?」

「だって、みんなが理想とする私じゃなくなったのに、池田君は前と全然変わらない」

「ん?変わってるのか変わってないのか、混乱するな」

「うー日本語が難しい」

いい感じでお酒が回ってきているみたいだ。

「私は今の私が好きだけど、今の私はみんなの好きな私じゃないから、好きな人に私を好きになってもらえないかもしれない、、」

「何だよそれ、好きと私がゲシュタルト崩壊しちゃってるじゃんか」

そう言って笑う池田君が泣いてるようにも見えたのは、お酒のせいだったのだろうか。
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