再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
 「花崎さん、あの人誰ですかね?」澄ちゃんが椅子をコロコロと寄せてくる。
 「知らない。宝田さんに聞いてみたら?」私より先輩の宝田さんなら知ってるかもしれない。

 「多分だけど、海外の支社長だと思う。」宝田さんが言う。
 ということは、もしかして?

 三人が出てきて、総務部長に挨拶に来た。
 すると、こちらを向き直って、人事総務の人たちに紹介する。

 「みんな、紹介する。こちらがアメリカ支社長の高野徹さん。高野亮君のお父上だ。」
 「皆さん、初めましてがほとんどかもしれないね。私はここ10年アメリカにいたので。しばらく、一時帰国します。新しい営業三課の構築のために。息子同様よろしくお願いします。」深々と頭を下げられた。皆もびっくりして頭を下げる。
 「こちらは、原田優樹菜さん。原田コーポレーションのお嬢さんだ。秘書室勤務になる予定だ。今まではアメリカの原田コーポレーションの支社で秘書をされていたが、取引のあるうちに来てくれることになった。英語も堪能だし、新しい課に関する役員の仕事を主に手伝ってくれる。」
 綺麗な茶色の巻髪とすらっと175センチくらいある背の高い美人がこちらを見回した。
 「ご紹介いただきました原田優樹菜です。私も支社長同様久しぶりの日本です。英語はいいとして、日本語でご迷惑かけたときにはお助け下さい。」ウインクをする。ひえー、課長までも真っ赤になってる。人事の男性達も釘付け。

 人事部長は先導するようにふたりをつれてエレベーターホールへ行ってしまった。
 「……なんですか、あれ?モデルか何かですかね?」澄ちゃんがため息をつく。
 「いやー、綺麗な人だな。これは、華になるな、会社の。」課長が楽しそうに話す。

 私は、澄ちゃんの言葉に笑いかけることもせず、眉間にしわを寄せている自分に気づきもしていなかった。
 営業三課の役員補佐?秘書?それって、つまり亮ちゃんのための人だよね。
 しかも、この間亮ちゃんが話していた縁談のことをうっすら思い出すと、嫌な予感しかしなかった。

 予感は的中した。
 翌日から噂が流れた。
 『原田優樹菜は高野亮の婚約者』と……。

 
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