再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
 
 「まあまあ、お姉ちゃん。お姉ちゃんが綺麗になったのは本当だよ。私も驚いた。なんか、妊娠してから更に綺麗になったよね。」
 「え?そうでしょー。隆もそう言うもん。」

 「楽しみだな。雫も妊娠したし、さらに綺麗になるということだ。」
 亮ちゃんはニヤニヤと笑う。

 「亮、いい加減にしなさい。」
 支社長が頭を小突いた。

 たくさんの人に大切にすると言われて本当に幸せだと実感した。

 帰り際、支社長に言われた。
 「雫さん。原田さんをこちらに残すことになってしまい、実は少し心配している。私は来週アメリカへ戻る。亮にはくれぐれも注意しておくが、何かあると大変なので、甥の専務にも見ておくように釘を刺しておくから。大事な身体だよ、我慢しないでね。無理も禁物だ。」
 心配そうに見つめている。

 「原田さんは納得しているんですか?」
 「そうだね。お父さんからも専務秘書のお話をもらって大分考えが変わったようだ。甥と相性が良ければトントン拍子で亮のことなど忘れていくだろう。心配なのは、雫さんが妊娠したことでお腹も目立ってくるから彼女の気に障らないかと心配なんだ。」

 「……確かにそれはあるかもしれません。」
 「そちらの部署の方にもそれとなくお願いしていくからね。」

 「そこまでして下さらなくても大丈夫です。皆さん私には優しいので。」
 「そうだね。花崎さんのことは部長以下皆さん本当に慕っているのがよく分かる。人徳だな。」

 「とんでもありません。会社ではいい人達に恵まれています。」
 「そういうところだよ。亮にはもったいないほどのお嫁さんだ。亮をよろしくお願いします。」

 「はい。」

 結婚式は、お姉ちゃんの出産前には無理だろうと言う判断で、とりあえず家族写真だけ早めに撮る方向で進めようと決めた。
 日本の結婚式は後にするかも知れないが、どちらにしろお披露目の宴をアメリカでやる必要があるとのこと。
 一度、安定期に入ったら早いうちにアメリカでやるという選択肢も考えている。

 とにかく、お姉ちゃんが出産前に出来るのならそれに越したことはないけど、支社長もお忙しいし、時間もあまりない。
 体調も見ながらとなるとなかなか難しいものがある。
 ただ、籍だけは早めに入れることになった。母子手帳に高野雫と名前が入るように。子供にお父さんの存在を教えたいから。

 
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