最後の詰みが甘すぎる。

「ねえ、うなぎまだ残ってる?お腹空いたんだけど」
「あるわよ」
「廉璽くんもうなぎ食べようよ。このままだと桂悟に食べ尽くされちゃう」
「ああ」

 廉璽はそう言うと駒を片付け始めた。
 ひとつひとつ愛おしげに駒を駒箱にしまう姿に亡き父を思い出す。
 将棋を指す者で瀬尾九段の名前を知らない者はいない。柚歩の父は巷では『悲劇の棋士』と呼ばれている。

 廉璽は駒をしまうと父の仏壇の前に座り、そっと手を合わせた。廉璽は瀬尾家にやってくると必ず仏壇に手を合わせてくれる。

「廉璽くんが名人に挑戦するなんて、お父さんも空の上できっと喜んでいるでしょうね」

 母は廉璽の背中を見て、嬉しそうに呟いた。

 果たしてそうだろうか。
 志半ばでこの世を去った父。
 その悔しさを思うと柚歩は母のように迂闊なことは口に出せなかった。

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