彼女はアンフレンドリーを演じている




 社員食堂の、窓際のカウンター席が基本の選択場所だった美琴。

 しかし本日は、休み明けで溜まった業務の関係で、遅れて昼休みに入ってしまったため、社員食堂に着いた時にはもうカウンター席が埋まっていた。


 遼に指摘されたことを気にすることなく、月曜日の本日もカレーを選んでいた美琴が、トレーを持ちスパイスの香りを撒き散らしながらウロウロと空席を探していた時。



「冴木さん!」
「……え?」



 声をかけられて振り向くと、テーブルに座り一人で食事を始めている下田が優しい笑顔を浮かべている。
 しかし美琴は、そんな下田とは初対面のはずだった。



「あ、突然すみません! 営業部の小山の先輩で、下田と申します」
「あ、小山くんの……」



 ということは、蒼太の後輩でもあると認識された下田は、席を探していた美琴に自分の向かいの席を勧める。



「ここ空いてるので、良かったらどうぞ」
「で、でも」
「いつも小山がお世話になっているので、冴木さんとお話してみたかったんです」
「……っ」



 そう言われてしまうと断りづらくなってしまった美琴は、下田の向かいにトレーを置いて、失礼しますと席に着く。

 初対面の下田を前にカレーを食べる事になるとは、と少し緊張しながらも沈黙したままは良くないと思い、入社順的に先輩の美琴から声をかけた。



「……小山くん、怪我の具合はどうですか?」
「松葉杖で出勤してきましたが、本人は元気で安心しました」
「そうですか、良かったです」
「冴木さんの返信メールにすっごく喜んでいましたよ」
「え、そんな大袈裟な……」



 下田の明るい口調に、美琴の緊張も少しずつ解け始めていくが、続く話の内容についカレーを掬った手を止める。



「それから、香上さんの病院に付き添っていただいた事も」
「っ……え?」
「本当に、ありがとうございます」



 そうして頭を下げた後ゆっくりと浮かび上がった下田の笑顔が、何だか意味深なものに見えてしまい、複雑な心境を抱えた美琴。



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