君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)
この状況にすかさず適応したのが、川本だ。合コンにあの敏生が来た——その好機を彼女が逃すはずがなかった。
川本はそそくさと席を立って敏生に歩み寄り、空いているソファーに促して、ちゃっかり自分は敏生の隣に落ち着く。
「私は、総務2課の川本紅葉です。芹沢くんとは一応面識あるんだけど、覚えてるかな?」
と、媚びた上目遣いで見つめられて、敏生の身の毛がよだつ。
「え?!」
この無駄にケバい風貌はとても目立つ存在に違いないのに、仕事で関わった覚えはない。すると川本は、とても自然に敏生との距離を縮めて耳打ちした。
「ホワイトデーで私にキャンディーくれたことがあるでしょ?うふふ♡」
「……!!」
敏生はその忌まわしい過去を思い出した。律儀にバレンタインのお返しをした入社1年目のホワイトデーで、両想いになったと勘違いして資料室に呼び出され、キスを迫られたのは紛れもないこの川本だった。
——こんな所でこいつに会うなんて、……さ、最悪だ。
敏生は落ち着かなげに座りなおすふりをして、川本との距離を空けた。