君とゆっくり恋をする。Ⅱ【第6話完結しました】(短編の連作です)


鳥山をにらみつける敏生の目は、酔っ払って完全に据わっていた。結乃も鳥山も、周りのみんなも、普段の姿とはあまりにも違いすぎる敏生に唖然として言葉も出ない。


敏生は立ち上がり、同僚たちの足を押し退けて大股で結乃に近づくと、結乃の腕を掴んだ。そして、力を込めて引っ張り上げ、結乃を鳥山の隣から立ち上がらせる。


「もう帰ろう」


そう言うや否や、敏生は結乃の腕を掴んだまま(きびす)を返した。


「えっ…?えっ…!」


結乃は状況に頭がついていかない。それでも、ソファーに置いてあったバッグに気づいて手を伸ばし、かろうじてそれを手に取った。


敏生が強引に結乃を引っ張って、二人はどんどん皆のいる席から遠ざかっていく。


「おーい。もうすぐ花火が始まるよー。ここは特等席だけど、見ていかないのー?」


鳥山が二人の後ろ姿に声をかけたが、振り向いて会釈したのは結乃だけだった。





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