この恋がきみをなぞるまで。
『直隠し』





「好きです」


放課後。

人気のない渡り廊下。

ふたりの人影。


きこえてきた震える小さな声は、耳に届くと同時にわたしの心臓の音がかき消していく。


とんでもない場面に出会してしまった。

それだけは理解ができても、間の悪さを悔やんだところで時は巻き戻せないし、数分前の自分を急かせるわけでもない。


廊下の曲がり角に背中をぴたりとくっつけてしゃがみこみ、息を潜めることしかできない。

小さな物音ひとつで見つかってしまうかもしれない状況。

もし見つかったとしても、たまたま居合わせたというだけでわたしは何も悪いことはしていないのだけれど、告白を受けている相手が問題だった。


「で?」

「だ、だから、城坂くんが良かったら、付き合ってほし……」

「無理」


まだ話している途中なのに、低く冷たい声がきっぱりと断ち切る。


シン、と静まり返る廊下から今すぐに離れたいのに、一歩も動けない。

言葉に詰まりながらも胸の内を伝えようとする彼女の必死さに、こちらが耳を塞ぎたくなる。

たぶん、彼女自身、自分が何を言っているのかわからなくなっているのだと思う。

否定的な返事しかしない城坂くんに対して『でも』とか『だって』を継ぎ接ぎに重ねていくうちに、言葉同士がくっつかなくなっていく。


これ以上はきいていられない。


告白という行為は、たとえこの先何度機会が巡るとしても、毎回身の丈いっぱいの勇気と覚悟が必要なのに。

それを、あんな言葉と態度で突っぱねる城坂くんに腹が立った。

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