この恋がきみをなぞるまで。
最後にもう一度、と見遣ると、城坂くんは筆を置いて目を閉じていた。
あの仕草、変わっていないんだ。
文字を書いている間は深いところに沈むように集中しているから、戻ってくるために必要なのだと、幼いころからずっとそうで、決して邪魔をしないようにしていた。
その様子を具に見つめていると、不意に手のひらが眼前に割り込んだ。
「なに?」
「いや、あんまりじっと見てるから」
「見てたけど……」
桐生くんを、じゃないのだけれど。
とは言い出せずに桐生くんを見つめていると、すすっと手を引っ込めて、そうだ、と別の話題を口にする。
「球技大会、もうすぐだけど種目は考えた?」
「フットサル」
「フットサルって、女子人数足りないんじゃない?」
チャイムも鳴って城坂くんも片付けを始めたので、桐生くんと二人で教室へ向かう。
今まで知らなかったけれど、隣のクラスらしいから。
「手、使わない種目じゃないと」
「ああ……そっか、バレーもバスケもキツイよな。あれ、いつもの体育はどうしてるの?」
「体育は事情を話して見学させてもらってるよ」
「なら、球技大会も見学できるんじゃあ……」
言い淀んで唸る桐生くんと、考えていることは同じだと思う。
球技大会は体育とちがって学年全体で動くし、この学校には体育祭がないから、毎年気合いが入っている。
クラス旗も作るし、自主的に練習をするクラスもあるくらい。
かかる手間や準備時間を考えると、全く関わらないというわけにもいかない。
そうなると、どこかの種目には参加を、となってしまう。
漠然といつも見学しているけれど、クラスメイトはその理由まで知らない。
運動はできない、と伝えてしまえばいいけれど、今年は城坂くんも同じクラスにいるし。
「でも、福澄さん。本当に無理だって思ったら言いなよ。体のことなんだから」
「そうだね。ありがとう、桐生くん」
真剣な眼差しの桐生くんに、この手の話だけは笑っては返せなくて、素直に頷く。
担任の先生にも話はしてあるけれど、日常生活で大した困り事があるように見えない程度の障がい、はどうにも傍から見る人には伝わりにくいようで。
体育の先生の理解の半分もあれば便宜を図ってくれたのかもしれない。
そうだったとしても、城坂くんに伝わってしまう方法は取りたくなかった。