この恋がきみをなぞるまで。


「ごめんね。来てくれてありがとう」


耳を塞いでいる間に話は終わったようで、足音がひとつ遠ざかる。

反対側に行ってくれてよかった、と安堵したのも束の間、残っていた足音がこちらに向かってきた。


「何してんの、お前」


まるで、わたしがここにいることを知っていたように。

冷ややかな城坂くんの瞳は、怒っても、驚いているわけでもなく、何も映していないように見える。


わたしが目の前にいるのに。

ここにいるのは、わたしなのに。


微動だにしない城坂くんを見上げていると、わたしの視線すらも不快だというように、ふいっと顔を背けられる。


「お前、勘違いするなよ」

「なにを……」

「全部聞いてたならわかるだろ」

「しないよ、勘違いなんか」


声が震えないように、語気を強めると城坂くんは不機嫌そうに眉を寄せた。


城坂くんの言葉はいつもわたしの胸に突き刺さって抜けなくて、ふと頭に過ぎっては不安を呼び込む。


「城坂くんは……」


わたしのことが嫌い?


今しか聞けないと思い、口を開いたのに舌に声が乗らない。

聞きたい、けれど、聞きたくない。


城坂くんの口から核心に触れる言葉を聞いたら、わたしと城坂くんの間に辛うじて繋がっていたものが、千切れてしまう気がする。

答えがわかっていても、期待はしていなくても、心のどこかでは知らずにいたいと願っている。


「嫌いだよ、ずっと」


少しでも躊躇ってくれるのではないかと、淡い期待さえも打ち砕く。

知っているから、聞きたくなかった。

わかっていたことなのに、出てくるはずのない続く言葉を待っていた。

いくら待っても、先の発言は塗り替えられない。塗りつぶされない。


面と向かって嫌いだと告げられたのは初めてで、言葉を失くす。


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