この恋がきみをなぞるまで。
図書室に本を返したあとに10分ほど時間があって、涼しいこの場所にいようか迷ったけれど、少し校内を歩くことにした。
渡り廊下には芸術科の作品やコンクールの記録が残っていて、それらを見て回る。
書道科の作品の端に、城坂くんの書いた字も掲示されていた。
どうしてもそれにいちばん目が惹かれてしまうのは、わたしだけなのだろうか。
この筆触が、城坂くんのものだとすぐにわかる。
城坂くんの半身とも呼べるような、繊細な文字を見上げていると、開いた目が焼けつくように痛む。
梅雨が明ける前、あの電話のあと、静かに泣き続けたあとから、何故か城坂くんの痕跡を見つけると涙が出そうになる。
大抵は堪えてしまえるのだけれど、それでも不意に訪れて、波が引かないまま溢れてしまうときがあった。
指の背で目元をなぞると、透明な雫がのる。
目には見えないものをこそ、信じてと城坂くんは言っていたけれど、目に見えないものなんかよりも、目に映るものの方が痛みも感情も伴わずに受け取れる。
城坂くんの文字を見て浮かぶのだってわたしの感情で、彼がここに込めたであろう想いは読み取れない。
城坂くんの弱さを垣間見て、そこにすら優しさは溢れていて、だから少し、悔しかったのだと思う。
切なさも、本当に勝手だという怒りも確かにあったけれど、根底にあるものを初めて見つけた戸惑いが大きかった。
高校3年生の夏なんて瞬く間に過ぎ去って、いつかこの場所に立つこともなくなって、城坂くんを忘れていくのだろう。
それでいいと思った。
そうなると、思ってしまうのが悲しくて、また少し熱くなった目尻を指先で押さえた。