あなたと私の恋の行方



***



「まったく、油断も隙もあったもんじゃない」
「ん? なにか言った? 千也君」

「いや、ひとりごと」

藤井運転手の安定した走りの車に乗っていると眠気が襲ってきたのか、由香はウトウトし始めている。
隣に座っている従妹の幼なげな顔を見ながら、千也は心の中で毒づいた。

(彼氏はいないって言ってたのに、危ないもんだ)

体調は変わりないかと叔母の麻子に電話したら、由香は急な呼び出しで仕事に行ったと言う。
土曜日に呼び出すなんて酷いなとカチンときたが、その時は叔母の体調を気遣うだけで電話を切った。

由香のことが気になってもう一度連絡してみたら、九時近いのにまだ帰っていない。
こんな時間までなにをやっているのか、急に心配になった。
千也から見れば、二十六とはいえ由香はまだお子ちゃまだ。

すぐ電話したらなかなか出ないし、出たと思ったら周りで男性の話し声が聞こえた。
雰囲気からして仕事っぽくない。

『迎えに行く』と言ってしまってから、夕食の時にワインを飲んでいたのを思い出した。
しかたなく、祖父の車を借りて迎えに行く。

(由香ちゃんはあの頃から変わらないな)

大河内家に由香が来たのは、十年以上前のことだ。
西下家とはあまり付き合いがなかったから、叔母が入院したことで由香と関わることになった。

あの頃の由香は、大河内家が恐ろしく思えたのだろう。
委縮したのか、泣きそうな顔をして屋敷にやってきた。

最初に由香を見た時『迷子のペット』みたいだった。
自分がどこにいればいいのか、誰に頼ればいいのか不安そうで落ち着かない表情だった。

(可愛いじゃないか)

妹の千紘も同じ気持ちだったらしい。
その日から、兄妹で由香の争奪戦が始まった。

どうやって手懐けようかと兄妹で張り合っていたら、あっさり母の真知子に奪われた。
由香は料理が好きなのか、あれこれ習ったり作ったりしている時間がなによりも楽しそうだった。

果物が大好きだと聞いて、今度は餌付けしようと試みた。

山梨の別荘に行った時、由香へのお土産にとブドウ農家から最高のシャインマスカットを選んで買ってきたのだ。
ひと粒口に入れた時の、あの輝く笑顔。

(ありがとう! このブドウ、世界で一番好き!)

その言葉を聞いただけで買ってきた甲斐があった。
いつか、由香の夢みている『シャインマスカットを抱えて食べる姿』を見たいものだ。

そのためにも親友と結婚させて、ずっと自分の近くに置いておこうと千也は決めた。
千也の密かな計画を、まだ大河内家の家族は知らない。


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