郡くんと甘いビターチョコレート



頭上から降ってきたその声を合図に、嫌な感覚はなくなった。


あの手の持ち主が近くにいるという怖さから、顔は上げられずに伏せたまま。


誰が私を助けてくれたのかもわからない、お礼を言いたいのに声が出ない、顔を上げられない。



「……このおじさん、駅員につき出すから少し着いてきてもらってもいい?ごめんね」



私を助けてくれたその声、今度は私に言葉を投げた。温かみのある、その声に私は小さく頷く。何か言いたいのに、言わなきゃなのに、まだ声が出なかったから。


普段は降りることのない駅で降りて、声の主に着いていく。


後ろをついていくだけの私には、助けてくれた人が誰かはわからない。



ただその時に初めて、同じ制服を着ていたことがわかった。






< 3 / 36 >

この作品をシェア

pagetop