開けずの手紙ー完全版ー/長編呪い系ホラー【完結】
呪いマニアの正体③



「…お母さん、この手紙の宛先である丸島友也は、則人さんがY高校に通っていた頃、物理の教師だった私の教師仲間だった男で、こちらの女性はその丸島の娘さんです」

「…」

鬼島の母は微妙に動揺しているようだった…。

「この丸島は、すでにこの世の人間ではありません。…昨年、息子さんが自殺されて10日もしない間に、首を吊って…」

和田は直球勝負に出た。
むろん、こうして顔を着き合わせた母親の感触を考慮した上でであった。


***


「あなた方…、ウチの息子を恨んでらっしゃって、それで来られたんですか?」

「お母さん、その問いかけに答える前に、なぜ、そのように思われるんですか?」

ここで母親は、肩が脱臼するのではないかと心配になるほどのため息をついて、やや背を丸め、ぼそりと語った。

「あの子は…、普通の人からしたら狂っていましたから…」

「!!!」

和田と奈緒子は口をポカンと開けながら、しばらく顔を突き合わせていた…。


***


「お母さん…、”そういうこと”で、今までも誰かが来られたこととかあるんですか?」

「いえ…。誰も…」

「では、なぜ、今私たち二人にはそのように…」

「則人が、自分が死んだ後、”そのような方”が来るからといってましたから」

「そうですか…」

和田は参ったなあという顔つきで、奈緒子とアイコンタクトを取った。
すると…。

「和田さん、私…、いいですか?」

「ええ、お願いします」

ここで発言者は奈緒子に移った。


***


「お母さん…、父は息子さんが高校3年の夏、就職相談で不適切な対応を取りました。それを、父は自己都合で記憶から消しました。7年前、Y高校の同窓会で、数十年ぶりに父は息子さんと再会し、その不適切な対応の事実を認めることと謝罪を求められました。でも、父は遠い記憶を理由にそれを拒否しました」

「…」

鬼島の母親は瞬きを忘れて、奈緒子の顔をじっと見つめていた…。

「…それで、これらの手紙で謝罪を求める要求を数度…。でも父は教育者の立場を保身という自己都合にすり替え、息子さんの要求を突っぱねた結果、彼から呪いをかけて恨みを晴らすという手紙を…。それが直接原因かどうかは知り得ませんが、息子さんは昨年自刃自殺されたと聞き及んでおります。まずはお母さん、息子さんへの教育者として不適切な行為を父に代わって、私がお詫びいたします」

奈緒子はその場に立ちあがり、母親に向かって深く頭を下げ、謝罪した。

「申し訳ありませんでした。どうかお許しください!」

「奈緒子さん…!」

その場はしばし沈黙した…。





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