素直になれない私たち
晴夏の本音

左足の包帯が取れるまでの約1週間、翔平は毎日私の家まで自転車で迎えに
きてくれた。お母さんが『あかりは今モテ期が来てるのよ』なんていうもの
だから、それを真に受けたお父さんがやきもきしている。

学校も私の意に反してとても騒がしい。


「おはよ。今日も睨まれてるよん」


朝から物騒な挨拶を、それとは対照的な笑顔でぶっこんでくる晴夏。
後ろを振り向くと、隣のクラスの水野さんがじっとこちらを睨んでいる。
4月にやたら翔平のところに来て私の席を陣取っていた子だ。
水野さんにとってみれば、私は席を譲らないばかりかケガをいいことに
翔平に送り迎えをさせている性悪女、といったところなのだろう。

谷口先輩を始めとした3年の先輩方もやたらと『大丈夫かー』なんていい
ながら教室を覗きに来る。子供じゃないんだから大丈夫です、といって
追い返す様子を翔平は気に入らない、といわんばかりの表情で見ていた。


「私ってそんなに転びそうに見える?」


そこまでドジっ子キャラじゃないんですけど、と私がプンスカしている
横で、晴夏はこんなことを考えていたようだ。


(先輩が自分に会いに来てるとは少しも思わないのね)


「谷口先輩も大変だ」


「え、何かいった?」


「あー独り言」


そういうと、晴夏は私の背中を押して席に戻った。この時ラインの
通知音が連続して聞こえていたけど、誰のスマホから聞こえてくる
のかわからなかったのもあって、特に気にすることもなく私もその
まま席についた。
ただ近くにいた南だけは晴夏のほうに視線を向けていた。


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