気づけば、吸血王子の腕の中【上】

正確には───下りようとした。

だが、足の感覚はほぼ皆無だった。

ドサッと床にへたり込んでしまった。

思い通りにいかない身体に、ナターリアは唇を噛む。


でも。

感覚はないけれど、動かし方は頭が覚えている。

幸い、床の柔らかな絨毯のおかげで、──ないに決まっているが──痛みは感じず、音もしなかったから──これまた元々聞こえないから憶測だが──、ダレル様は気づいていないようだ。



布団から出ると、震えが一層増した。

悴む手で必死に靴を履き、ゆっくりと立ち上がる。

数日前ここに届いた新しい洋箪笥から、一番厚手のコートを取り出す。

ダレル様が背の低い私のために少し小さめに注文し、彼のワードローブの隣に置いてくれた。

コートを着るのでさえ、両手でなんとか。

三倍くらいの時間がかかった。



ドアを開けようとしたとき、気がつく。



使用人と出くわせば、間違いなく部屋に帰される。


人と会わない、手っ取り早い方法...


部屋を見回すと、ぼんやりとした月光が目に留まる。

.........窓から......?


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