気づけば、吸血王子の腕の中【上】
手がふさがっている彼女の代わりに、腕の中からノックをする。
ヴェロニカは扉に声を掛け、器用にドアを開けた。
髪を握り前方に目を向けたナターリアの視界は、あっけなく遮られた。
意外にもダレル様は扉の近くにいて、ヴェロニカから彼の腕の中にすぐ預けられたのだった。
...まるで幼子のように。
私は子供じゃない、と小さく唇を尖らせたナターリアだったが、思えば長身のメイドは60後半、王子はその倍くらい生きている。
既に慣れ親しみつつある、甘くて少しだけ苦い香りに包まれる。
視界の端で、ヴェロニカが一礼して扉を閉めるのがちらりと見えた。