気づけば、吸血王子の腕の中【上】

あいにく、この部屋に暖炉はない。

自室の炉も、焚いたのはいつぶりだったか。



しばらくソファでぐったりしていたナタリーが、むくりと起き上がった。


やはり用事があって来たのか、と筆記具を手渡すと、彼女の手からは予想外の事実が紡がれた。


石の精は太陽の(もと)にいて初めて生きていけること。
太陽がない寒さは、どんなに温めても結局は意味を為さないものだということ。
でもヴァンパイアの皆に言えなかったこと。
先ほど再度脱走を試みてやめたこと。


無表情でいて、懺悔と諦めの混じったような顔をするから、不意にここに来たばかりの頃を思い出した。


ここに来てふた月。

やっと心から安心した顔をしていたというのに。


< 137 / 147 >

この作品をシェア

pagetop