気づけば、吸血王子の腕の中【上】
あいにく、この部屋に暖炉はない。
自室の炉も、焚いたのはいつぶりだったか。
しばらくソファでぐったりしていたナタリーが、むくりと起き上がった。
やはり用事があって来たのか、と筆記具を手渡すと、彼女の手からは予想外の事実が紡がれた。
石の精は太陽の下にいて初めて生きていけること。
太陽がない寒さは、どんなに温めても結局は意味を為さないものだということ。
でもヴァンパイアの皆に言えなかったこと。
先ほど再度脱走を試みてやめたこと。
無表情でいて、懺悔と諦めの混じったような顔をするから、不意にここに来たばかりの頃を思い出した。
ここに来てふた月。
やっと心から安心した顔をしていたというのに。