気づけば、吸血王子の腕の中【上】
父王の病状回復を祈るために行った大聖堂で、彼女は倒れていた。
人間の香りと共に何故か、懐かしい気持ちが湧き上がったのだ。
後で分かることだが、それは石の精霊の持つ香りによった。
悪く言えば興味本位...で拾った彼女は、何もかもが “無” だった。
突然来た場所に驚くでもなく、周りを警戒するもいつもされるがまま。
一度は遠慮しても、却下されたらその後は何の抵抗もなし。
いつもぼんやりしていて、自我が薄い。
そう思っていたが、少し違った。
変わったのだと、私は思いたい。
ずっと見ていると、ナタリーは微かだが喜怒哀楽を表に出すようになった。
こちらが気づいていなかっただけかと思ったが、ピエールと初めて会った時は頬を強張らせて超警戒モードだったと姉上が言っていたから、少しは私に心を開いてくれたのだ、と思うことにした。
ナターリアが狼狽えたのはピエールの見た目も一因だとは思うが、それでも嬉しかった。