気づけば、吸血王子の腕の中【上】
ページの左上に、説明書きがあった。
【命ひしめく湧水。古よりいかなる生命も治癒されし聖域なり】
ゴクリと唾を飲み込んだナターリアは、急に開いたドアに立つ人影に安心した。
見慣れた、涼しげな目をした背の高い世話係が立っていた。
《時間だよ》
ナターリアは急いで本を閉じて席を立つ。
少し後ろめたさを感じながら、ナターリアはドレスの埃を払った。
《楽しかった?......ならいいけど。体はほんとに平気なの?休んだほうが良いとあたしは思うんだけど》
隣を歩く心配そうな顔のヴェロニカに上の空で応えながら、王都とは反対の方をちらりと振り返る。
本と同じように、遠くに森があった。
あの森の奥に、太陽なしで体の回復を期待できる水がある。
ナターリアが目を覚まさなくなったのは、その二日後のことだった。