気づけば、吸血王子の腕の中【上】
そして───嬉しかった。
ほっとした。
こんななのに、こんな私なのに、ダレル様は私のために走ってくれたんだろう。
その事実に、ふう、と息をついたナターリアは、深い深い何処かへと再び意識を沈めた。
ひたひたと、裸足で歩く自分の足音だけが響く。
何も見えない、何も聞こえない。
でもそれは昔から、なぜかナターリアが安心できる条件だった。
と突然、頬に痛みが走った。
手で熱い頬を押さえ足を止める。
そんなナターリアに、鋭い声が降る。
「ああいやだ、早く飛ばしてくだされ」
おばあ様だった。
ああ、ああ、これは。
これは、扇子で引っ叩かれたあのときだ。