きみの背中を追いかけて

「ねぇ、これってきみが描いたの?」

先輩の目線の先を辿って見ると、ノートが見開きになっていて隅に描いていたイラストが丸見えになっていた。

「わわっ! 見ないでくださいっ!」

慌ててノートを拾って腕の中で抱きかかえた。

「どうして隠すの?」

先輩は不思議そうに僕を見る。

けれど、その視線から逃れるように僕は俯いた。

「えっと、その、これは‥‥‥」

上手く答えられなくてしどろもどろになる。

本当は怖かった。

絵を見られたことだけじゃなく、絵に対して文句を言われるのが怖かった。

「私、きみが描いた絵、好きだよ」

その言葉に驚いて顔を上げた。

誰かにこんなにも褒められたの久しぶりで動揺を隠せなかった。

「もし良かったら美術部に入らない?」

「えっ?」

「今ね、人数少なくて入部の子、探してたんだ」

「でも、僕なんかの絵なんて……」

「私、きみが描いた絵とっても気に入ったの!」

満面の笑みを浮かべる先輩が、僕にはまるで天使のように見えた。

「だから、私と同じ美術部に入って一緒に活動してみない?」

「……僕で良ければ」

「じゃあ、決まりね!」

トントン拍子に話が進んで、気付けば自己紹介をする流れになった。

「私、2年の成海(なるみ)莉緒。きみは?」

「僕は1年の月島(つきしま)翔です」

「よろしくね、翔くん!」

莉緒先輩は手を差し伸べてくれて、僕は握手を交わした。

これが莉緒先輩との出会いであり、始まりのきっかけでもあった。
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