空に一番近い彼
私の父は設計事務所を営んでいる。
そこそこ名の知れた会社なので、我が家は裕福な家庭の部類に入る。

両親に兄と姉、家族は皆私を大切にしてくれる。
まるで、ガラス細工を扱うように……


私の耳が聞こえなくなるとわかってから、家の雰囲気がなんとなく変わってきたのを感じていた。卒業し、程なくして全く聞こえなくなると、居心地が良かったはずの家が、一変してしまった。

家族に気を遣わせている。

私はここにいてはいけないのだと思った。

生まれ育った都会を離れ、山間部にある別荘に住むことにした。毎年夏に家族と過ごしている場所だ。とても静かで、穏やかな時間が流れる。
人とあまり関わらなくて良い場所。

もちろん、皆が反対した。聴覚障害者の私が一人、実家から遠く離れた山地に住むなんてことはさせられない、心配だと。


けれど、最終的には私の気持ちを優先してくれた。これからの事についても、焦らず別荘でゆっくり考えればいいと送り出してくれたのだ。

そして私は一人、別荘へやってきた。

この別荘は2階建てで、屋根裏部屋がある。
屋根の一部が窓になっていて、寝転がると空が見える。夜は星が綺麗で、ちょっとしたプラネタリウムのようだ。

私の一番お気に入りの場所。

でも、木の枝が邪魔をしてしまっているところがあり、そこがちょっと残念なのだけれど、自分ではどうすることもできない。
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