月下の逢瀬
抱き合ったまま亡くなっていた、という二人。


佐和を抱き留める兄貴に、彼女は満足しただろうか。
幸せに笑っていただろうか。

自分の知りようのない、炎の向こうに消えた情景に思いを馳せる。


『晃貴くんは、あの二人のことはもう忘れなさい。佐和も、晃平くんもきっと、納得していたはずだから。
遺されたあなたが、二人への罪を感じることはないわ。

だいたい、晃貴くんまで巻き込んでおいて、自分だけさっさといっちゃうなんて、わがままもいいとこ。
叱ってあげたいわ』


写真の佐和に向かって言うおばさんの声は、微かに震えていた。

同じように、佐和に目をやった。


愛おしくて仕方なかった笑顔。
あの笑顔の為なら、何でもしたのに。

結局、きみは兄貴の腕の中じゃないとダメだった。
最期の時、きみは少しくらい幸せだった?
笑っていた?


『おばさん。俺、やっぱり佐和が好きだ』


ぽつりと言った。


『今でも、好きなんだ。
俺を置いていったこと、正直恨めしいよ。

でも、佐和が兄貴と幸せな気持ちで逝けたのなら、それは、よかった、のかな……』

『……よかった、と思いましょう。じゃないと、辛すぎるもの』


『………………』


おばさんと俺は、黙って佐和の笑顔を見つめた。


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