月下の逢瀬
理玖が掛け離れた場所へ行ってしまう。
あたしの手の届かない、別の人のところへ。

抱き合って眠れる夜の、終わりがはっきりと姿を現した。

まだ、気付かないままでいたかったのに。
こんなに近くだったなんて――






そして、その終わりは、今日なんだ。






ぽたっ、と涙が一粒手の甲に落ちた。
それに続く、幾粒の涙。

震えの止まらない手を伝い落ちていく涙が、滲んで見えた。


「理玖……理玖。りく……っ」


大好きな、大切な人。
名前を呼ぶのも苦しいほど。


あたしはいつ、どうしていたら、理玖の隣にずっといられたのだろう。
理玖の側にいたい、それだけ叶えるためには、どうしていたらよかったの?


やっと手にした僅かな時間。
夜の隙間に、ひそやかに寄り添うだけ。
それすらも、もうできない


「理玖……」


名前を呼ぶ声は嗚咽に変わって。
失った人の差し出してくれる手を望んでも、現れるはずがないのは分かっているけど。


あたしは泣き崩れたまま、ずっと理玖の名を呼んでいた。




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