月下の逢瀬
『で、病院に行くんだけど。先に椎名を家に送ってく』


『え!? あたし、一緒に行く』


玲奈さんが大変なのに、あたしがのうのうと家にいられる訳ない。

だけど、先生は前を向いたまま、頑なに言った。


『ダメだ。椎名は家にいろ』


『だって……! あたしのせいなのに』


『椎名だけの責任じゃない。宮本も、宮本に依存しすぎてる久世も、だ』


とにかく帰るんだ、と先生は言って。
それから少し口調を和らげた。


『このままだと、椎名が壊れてしまう。
お腹の子を、大事にしてやれよ』


『先、生……』


『今、大事な時期なんだぞ。無理はすんな。椎名は自分の体を大事にしなさすぎる』


車は、あたしの家へと向かう道を走っていて。
あたしはそれをどうすることもできずに座っていた。


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