月下の逢瀬
「俺と玲奈が付き合うようになった理由は、聞いた?」


「背中の……傷のことなら」


「そっか」


自嘲気味にくすりと理玖が笑った。


「酷いだろ。一生残るんだ、あれ。
あいつ、あんな傷作ってまで俺といたいって、馬鹿だよな」


「……え? 知ってた、の」


玲奈さんがわざと怪我したこと。
驚いてその横顔を見た。


「そんなに強く拒絶するわけがないだろ。あの時、玲奈は大袈裟によろめいて、落ちたんだ。

だけど、俺は玲奈の話に、のった。

あいつは誰にも必要とされていなくて、たった一人だったから」


理玖は目の前の水面に視線をやって言った。

けれど、その瞳は昔を振り返るように、遠くを見つめていて。


あたしはただ、横で黙って聞いていた。




< 274 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop