月下の逢瀬
車窓はどんどんと、見馴れた景色を消していく。
それを眺めながら、思う。



これでいいんだ。

あたしは、この繋いだ手をとることを決めたんだ。
傷つけるのも、傷つくのも、もう嫌だったから。


あたしは、晃貴と生まれてくる赤ちゃんとの幸せだけを、考えていればいい。

それを望んだんだから。



だから。


『真緒を、よろしくお願いします……』


さっきの理玖の言葉が、胸に刺さっていた。
存在を忘れようとしていたのに、まるで楔(くさび)のように深く、深く。


その楔ごと、理玖への想いを捨てなければいけない。
捨てられないのなら、心の奥底へ、深く深く沈めるのだ。


そうしたらきっと、いつの日か、そんな想いがあったことすら忘れ果ててしまえる――――。







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