月下の逢瀬
つかの間、見つめあっていた。


「うー……」


寝付いたのか、体を預けた優月が小さな声をあげた。


「…………理玖は、卑怯だね」


ぽつん、と言葉を零した。


理玖は、ずるいよ。

今までずっと、見ないフリをしてきた理玖への想い。
消え失せたのだと、必死に思い込んできたのに、
理玖はあっさりとそんなことを口にする。

深く深く沈めた想いを、その言葉はいともたやすく引き上げて、さらけだしてしまう。
捨てられなかった想いに、息を吹き込んでしまう。


終わらせたはずの恋を、一生の恋にさせようと言うの?


理玖が、ふ、と笑った。


「わかってる。真緒に言うべきことじゃない。

でも、勝手だけど知っていて欲しかった。
真緒にもせめて、俺を忘れて欲しくなかった。

こうして気持ちを伝えておきたかったんだ」


泣きそうになるのを堪えた。


忘れられるはず、ないじゃない。

今あたしが抱いてるのは、あなたの子供なんだよ?
この子を見るたびに、きっと思い出す。

どんなに心の奥に沈めても、隠しても、あなたの存在があたしの心から消えることなんて、ないよ。


その言葉、そのまんま、あなたに返したい。




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