月下の逢瀬
重い体を引きずるようにして学校に行くと、
理玖が登校早々に、下級生から告白されたという話を聞いた。
「その場で断ってたらしいんだけどね。
彼女がいるっていうのに、それでも告白する人が絶えないってのもすごいよねー」
教えてくれたのは、他人の恋愛話が大好きな結衣(ゆい)。噂に無頓着なあたしに、いつも新しい情報を教えてくれる。
「すごく優しいし、守ってくれそうだし、久世さんを見てたら羨ましくなるもんね。
自分が彼女ならって思う気持ちも分からなくはないけど」
一人で納得した様子の結衣に、曖昧な笑みで答える。
「真緒はさー、あんなモテる幼なじみがいて大変だよね。よく、理玖くんのこと聞かれてるでしょ?」
「あー……うん。でも、幼なじみって言っても、中学生ぐらいからまともに話したこともないから。理玖のこと聞かれても困るんだけどね」
理玖とあたしは、家が隣同士の幼なじみだ。
小さな頃から、兄妹のようにして育ってきた。
面倒見がいい、強気な理玖は、泣き虫だったあたしを、いつも守ってくれていた。
優しい、お兄ちゃんのような存在だった。