転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「ほんとはもっとカッコつけて渡したかったけど」


訳も分からないまま彼の指示に従えば、逸生さんは独り言のように紡ぎながら私の首に何かをつけた。

それは1粒のダイヤがあしらわれたプラチナのネックレスで、おずおずと指先で触れながら、逸生さんの方へ向き直る。


「どうしてこんな高価な物…今日誕生日でも何でもないですよ」

「うん、分かってるよ」

「だったら、どうして…」

「それは首輪みたいなもんかな」

「…首輪?」

「また勝手にいなくならないように。紗良は俺のだよって意味で」


私の首元に視線を落とした逸生さんは、「似合ってる」と甘い台詞を吐きながら口元に綺麗な弧を描く。

その表情は何故か寂しげで、思わず抱き締めたくなるのを、ぐっと堪えた。


「心配しなくても、1年間は逸生さんのそばにいるって決めたので、勝手にいなくなったりしませんよ」

「…ほんとに?」


こくりと頷けば、逸生さんはほっとしたような表情を見せる。

そしてそのまま後ろから抱きしめるようにお腹に手を回されて、予期せぬ出来事に、抵抗する余裕すらなかった。


再び私の肩に顔を埋めた逸生さんは、耳元で「紗良」と小さく放つ。


「…絶対離さないから」


“離さない”

ついさっき同じ言葉を父に言われたけれど、逸生さんに言われると、何故か胸の奥がきゅっと苦しくなる。

それと同時に、どこか束縛っぽく取れる彼の態度にドMの部分も刺激され、きゅんと心臓が跳ねた。


ただの恋人ごっこのはずなのに…逸生さんはどうしてこんなにも甘やかしてくれるのだろう。


「逸生さん、ありがとうございます。大事にしますね」

「…うん」



せっかく貰った“首輪”という名のネックレス。逸生さんと離れるその日までは、欠かさず身につけることにしよう。


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