転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「坂本さん。彼のことは私が一方的に好きなだけなんです。だから私達がデキてるとか、そういう噂は…」

「だから、誰にも言わないって言ったじゃないっすか」


頬杖をつきながらボソボソと呟いた坂本さんは、そっと手を伸ばしてきたかと思うと、私の頭の上にぽんっと優しく乗せた。


「…不憫過ぎません?あの人、来年結婚するんですよね」

「……」

「そんな人を想って、何になるんすか。しんどいだけでしょ」


そんな改めて言われなくたって分かってるよ。でも、自分じゃ気持ちが抑えられないから恋って言うんじゃないの?


「…私、ドMなので。敢えてそういう相手を選んでしまうのかもしれないですね」

「……」

「今一緒にいられるだけで幸せですよ。彼が他の人と結婚しても、それで彼が幸せになれるならそれでいいです」

「…突き放されれば放されるほど、燃えるってやつっすね。理解しました」


理解した、なんて言いながら、坂本さんは苦しそうに表情を歪める。私の頭の上にある彼の手が、私を慰めようとしているのが伝わってきた。


「坂本さん、良ければドM同士でお友達になりませんか」

「……」

「ふたりだけの秘密。私、こういう友達を作るのが密かに夢でした」


自分がドMだと打ち明けたのは、坂本さんが初めてだ。告白された後にこんなことを言うのは酷なのかもしれないけれど、このまま坂本さんとただの他人になるのは何だか寂しかった。


「…別に、いいっすよ」

「本当ですか?ありがとうございます」

「その代わり、これからは俺になんでも相談してください。ストレス発散したくなったら俺に当たってくれてもいいです。罵られてもOKっすから。俺ドMなんで」


決め台詞を吐いて、最後に「はは」と初めて声を出して笑った彼は、そのまま顔を膝に埋めたかと思うと急に静かになった。


「……嘘でしょ?」


どうしよう。この人寝たかも。


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