転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
12.すれ違い


「このお饅頭、久しぶりに食べたけどやっぱ美味しいいいい」

「昔から変わらない味よね。私も大好きよ」


休憩時間、昨日稲葉さんのお店で買って帰ったお饅頭をオフィスのメンバーに配れば、百合子さんと古布鳥さんが嬉しそうに顔を綻ばせた。


「岬ちゃんも食べてる?どう?美味しいでしょ」

「はい、程よい甘さでしつこくなくて、癖になる味でいくらでも食べられそうです」

「食リポ?」


百合子さんの問いかけに正直に答えれば、なぜか怪訝な顔をされた。人付き合いって難しい。




「失礼します」


黙々とお饅頭を食べてた矢先、突然オフィスに入ってきた若い男の人が「休憩中にすみません」と気まずそうに頭を下げた。

それに気付いた古布鳥さんは、食べかけのお饅頭をデスクに置き、慌ててその人のところへ駆け寄る。


「あら加賀(かが)さん、お世話になっております。ごめんなさいね、呑気にお饅頭食べちゃって」

「いえ、こちらこそお邪魔してすみません。書類をお持ちしただけですので、すぐに帰ります」

「わざわざありがとうございます。あ、よろしければ加賀さんもおひとついかが?甘いもの食べられるかしら」

「あ、これ有名なお饅頭ですよね。ありがとうございます、いただきます」


ふたりのやり取りを自席から眺めていれば、百合子さんが小声で「加賀さん、相変わらず男前」とうっとりしながら呟く。

隣にいるイノッチさんが明らかに傷付いた顔をしたけれど、百合子さんは気にせず「ほんと色気がやばいわ」と続けた。


「(色気…?)」


百合子さんの言葉を聞いて、再び加賀さんという人に視線を向ける。

…確かに、色気があるかも。


< 181 / 324 >

この作品をシェア

pagetop