転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「初恋の相手だからって、ちょっと美化し過ぎてませんか」

「確かに昔は一目惚れみたいな感じだったから、紗良のイメージを勝手に自分の中で作り上げて恋をしてたとこはあるかもしれないけど、再会して、紗良の中身を知ってからもっと好きになった。だから全部本当のことだし、昔より今の方が気持ちは強いよ」


いつになく真剣な表情で紡いだ逸生さんは「もう離したくない」と独り言のように小さく放ち、長い指で私の横髪を撫でると、そっと頬にキスを落とした。

“もう離したくない”
その言葉が、深く胸に突き刺さる。逸生さんが甘い言葉を放つ度、嬉しさと同時に苦しさが襲ってくる。

本当に、どうしてもっと早くこの気持ちを伝えなかったのだろう。そうしたら、もっともっとたくさんの愛を伝えられて、こうして逸生さんのぬくもりもたくさん貰えたかもしれないのに。


「…私も、こんなにも逸生さんを好きになるなんて思っていませんでした。日に日に気持ちも強くなっています。好きな人なんて一生出来ないと思っていたのに…人生何が起こるか分かりませんね」


逸生さんのにおいが、鼻腔をくすぐる。いつも当たり前に感じていた逸生さんのぬくもりが、今日は今までで一番心地よく感じた。


「好きな人が出来るだけでも、私にとっては凄いことなのに。その人と両思いになれるなんて…私は幸せ者です」


ぽつぽつと、気持ちを言葉にする度に胸が締め付けられる。今は(・・)幸せなはずなのに、何故か涙が溢れそうになる。

いや、幸せだからこそ苦しいのかもしれない。

ここでどんなに愛の言葉を交わしたって、私達の未来は決まっている。だからこんなにも胸が張り裂けそうになる。

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