転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

「…坂本さんはお元気ですか?」


迷った挙句、質問を質問で返した私に、坂本さんは『岬さんに会えないんで元気ではないです』とストレートな言葉をぶつけてくる。

それにくすぐったさを感じながらも「何か用ですか?」と尋ねれば、これまたどこで覚えたのか『いや、ただ岬さんの声が聞きたかっただけです』と甘い台詞を吐くから、思わず息を呑んだ。

返事に困り黙っていると『今大丈夫ですか?』と続けた彼。「少しなら」と答えると、電話の向こうで坂本さんが笑った気がした。


坂本さんと初めて会話をしたのは、確か逸生さんと三人で一緒に展示会へ行った日だった。あの時の無愛想な坂本さんが思い出せないくらい、今では私に色々な表情を見せてくれる。

そして私も、坂本さんにはかなり気を許していると思う。だからなのか、彼の声を聞いていると目頭がじわじわと熱くなるのを感じた。

喉元でなんとか耐えている感情が、一気に溢れそうになる。


『あの日から岬さんのことが気になって仕方なくて…飯、ちゃんと食ってます?』

「…はい、食べてますよ」

『ぐっすり眠れてますか?』

「…はい。夜だけでなく日中もごろごろとだらしない生活を送っています」

『元気ですか?』

「……はい、元気です」

『…やっぱ、無理してますよね』

「……」


再び同じ質問をされて、なんとか頷いたのはいいものの。確信したように言い切る坂本さんに“そんなことないですよ”の一言が、なぜか言えなかった。

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